ロシアのFTA

ロシアは2012年8月に、156番目のWTO加盟国となりましたが、貿易の自由化については遅れており、ソ連崩壊後も政治的な確執もあり、西側との間での貿易協定は締結されていません。とはいえ、同国の市場参入を目的とし外資系企業の工場なども増加しており、貿易の機会は増加しています。

同国では2012年9月、自動車リサイクル税導入が決まり、外国で製造された車種の価格が5~7%上昇するとの予測が出ています。こうした事情に伴い、ロシアへの輸出で高い関税と国内諸税を支払うよりも、ロシア内に工場を作った方が得であるとの算段から、ロシア国内への進出を検討するメーカーもあります。いずれにせよ、現地調達でまかなえない部品や材料は輸入する必要があるため、関税の問題も無関係ではありません。

ロシアはCIS諸国との間に関税同盟を含む協定を締結していますが、CISそのものが形骸化しつつあり、ロシアとしては何らかの形で旧ソ連時代の「まとまり」を維持しようと様々な共同体、同盟を作っていますが、その勢力が及ぶ範囲は狭まってきているのが実情です。旧ソ連時代には連邦としてまとめていたものの、一旦独立した後はロシアと袂を分かつ国も出てきており、これらを止めることができないのが現状です。

CISは大別すると、新ロと反ロ(もしくは親欧)との分けることが出来、ウクライナのようにロシアとの間で緊張が高まるような関係を何度も経験しつつも、対話を重ねている国もありますが、同国もEUへの加盟を悲願としており、その前段階でのEUとの連合協定に期待を寄せています。一方でロシア側は、自陣営への関税同盟への参加を呼びかけるなど、旧ソ連の国々が西側に組み込まれないよう予防線をはっています。

2000年10月10日にロシアを盟主的な立場としてベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタンとの間で「ユーラシア経済圏の創設に関する協定」が締結されていますが、ウクライナのヤヌコビッチ大統領は2012年8月にこの関税同盟への加盟について前向きな姿勢を示すものの、いまだ実現しておらず、EU加盟のためにウクライナがこの同盟に加わることはないとする報道もあります。

CIS諸国構成
反ロシア親欧米派(欧州CIS) 親ロシア派
グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ(GUAM諸国) ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニア

ソ連が崩壊した後に、ゆるやかに各国が独立・自立していくための枠組みであったCIS(独立国家共同体)ですが、ロシアによっては共産圏の勢力維持という側面があり、求心力を失いつつも、西側と一線を引いてきました。現在のCISの加盟国は、ロシア、ベラルーシ、アルメニア、ウクライナ(CIS憲章に署名はしていないため、正式加盟はしていないことになっている)、モルドバ、アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンとなっています。トルクメニスタンは2005年CIS脱退し、準加盟国の位置づけになり、同じく当初加盟国であったグルジアは2008年にCIS脱退しています。

ロシアのつくる関税同盟は、同盟間では関税の撤廃や低減などの条項が盛り込まれていますが、同盟国の外に対して、共通の関税を設定することが出来るため、自由貿易協定や経済連携協定とは異なる性質を持つ協定です。同盟国間で協力して保護主義的な通商・貿易政策を取ることにも使われているため、貿易自由化を阻害するという声も聞かれます。ロシアの締結する関税同盟はこうした性質を如実に示すものです。

なお、下表とは別に、アメリカ、カナダ、トルコ、EUの4カ国から輸入する場合については、GSP税率が適用されます。GSPを採用している先進国は、たいていは非常に多くの開発途上国を対象としていますが、ロシアについては対象外としている国が多いため、GSPを利用した特恵貿易が可能なのは前述の4カ国に限られます。

ロシアのFTAの締結国、協定国、交渉国

ロシアのFTA、EPA、関税同盟の締結国、交渉国
締結国、交渉国 状況、協定内容
CEZ(Common Economic Zone) 2004年発効。ベラルーシ、カザフスタン、ロシア、ウクライナとの間のFTA
アルメニア-ロシア 1993年発効、FTA
グルジア-ロシア 1994年発効。FTA。但し、現在はグルジアに対して禁輸措置。グルジアはCISからも脱退。両国間で紛争。
キルギス-ロシア 1993年発効、FTA
アゼルバイジャン-ロシア 1993年発効、FTA。
ベラルーシ-ロシア 1993年発効、FTA
カザフスタン-ロシア 1993年発効、FTA
モルドバ-ロシア 1993年発効、FTA
セルビア-ロシア 2006年発効。旧ユーゴスラビアとの間で協定があったため、その後継国の一つであるセルビアとも締結。FTA。
タジキスタン-ロシア 1993年発効、FTA
トルクメニスタン-ロシア 1993年発効、FTA
ウズベキスタン-ロシア 1993年発効、FTA
ユーラシア経済共同体(EAEC) 1997年発効。関税同盟。ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン。CISそのものが形骸化したため、それに代わり得る組織として、ロシアが推進。ただ、事実上、これらの関税同盟は形骸化しているとされる。

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