関税から見るマレーシア自動車産業と政策

マレーシア自動車産業と市場

マレーシアにおける自動車販売台数は直近の2013年のもので、年間65万台から67万台と推計されています(通産省傘下機関のマレーシア自動車研究所、マレーシア自動車協会、フロスト&サリバン等。前年比から数%幅で毎年増加推移)。政府発表では、55万人の雇用を生み出している産業でもあります。

マレーシアは他のASEAN諸国の市場と異なり、乗用車が9割を占める特異な市場の一つで、中でも4人乗りのセダンに相当する車種が中心となりますが、多人数乗りの多目的車についても近年は徐々に増加してきています。

マレーシアにおける自動車の普及率と販売台数

前述の通り販売台数は年間65万台前後ですが、マレーシアの人口が2900万人前後で、世帯あたりの自動車(乗用車)の普及率がすでに6割を超える高水準にあることから、ASEAN諸国内の他の成長市場と比べると、高級車へのシフト等除けば、今後爆発的に販売台数が増加することは考えにくいですが、後述する新国家自動車政策(NAP2014)によるエコカーの自国での生産推進を国策として新たに進める方針を出している為、販売を行っている自動車メーカーには既に影響が出始めています(現行の輸入車の価格アップ)。完成車に対する輸入の物品税の減免が終了し、かわりに自国で組立てを行う車(CKD)に物品税の減免を認めています。物品税の税率が非常に高額になることから、自国で組み立てを行う必要があるKD車(ノックダウン車両)のほうが価格面で有利になります。

マレーシアにおける自動車の関税

関税についてはASEAN域内のWTO加盟国であり、昨今の国際情勢では多国間を巻き込んだ交渉となっていることから、一旦下げた関税を自由に変えることは難しくなっていますが(特に関税を上げることは困難です)、かわりにマレーシアでは国内における自動車の物品税(Excise Duties)を変えることで自動車産業に直接的に介入する政策をとっており、その政策の中でも骨子となる新国家自動車政策、通称NAP2014の動向には注視する必要があります。

マレーシアにおける自動車の関税率は下表で紹介するような分類によって変わります。大まかに見れば、通常の関税率で30%といったものが一般的です。

あらゆる貿易品は、輸出時と輸入時にHSコードと呼ばれる分類番号がつけられ、この番号によって関税率が決定します。HSコードの番号体系は国によって異なりますが、たとえば、HSコードのうち一般的な乗用車が適合する8703項のカテゴリーだけでも、日本が9分類なのに対し、マレーシアでは180分類にもなります。
自動車の関税は、様式とエンジンの排気量(シリンダー容積)によって分けられていることが多いですが、マレーシアの場合、これらの分類に加えて、「完成車かノックダウン(自国に分解した部品状態で持ち込んで組み立てる)か」「新車か中古車」なのかといった分類が加わるため、分類項目が非常に多くなっています。

注目すべきは、CBU(完成車)とCKD(ノックダウン車:車を分解して輸入し現地で組み立て)とで税率を変えている点です。ノックダウン車の場合、完成車とは違い、組み立てるだけとはいえ、自国に自動車の組み立て工場と人員が必要となるため、雇用を生み出し、自動車産業の足がかりを築くことができます。自国を自動車生産拠点としていきたい意志が見て取れます。

マレーシアにおける自動車の関税体系

一般的な乗用車が該当する8703項の関税分類体系をマレーシアではどのような分類にしているのか見ていきます。一般に、関税はHSコードの国ごとのフルナンバーが確定しないと決まりません。

HSコード 内容 関税率(MFN税率)
8703 乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン及びレーシングカーを含み、主として人員の輸送用に設計したものに限るものとし、第87.02項のものを除く。)
※注第87.02項とは「10人以上の人員(運転手を含む。)の輸送用の自動車
  -雪上用、ゴルフカー、これらの類似車種  
8703.10.100 –ゴルフカーとゴルフバギー 0%
8703.10.900 –その他 30%
  -上記以外の車でピストン式火花点火内燃機関(往復動機関に限る。)を搭載したもの  
  –排気量が1000ccを超えない  
8703.21.100 —救急車 5%
  —乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD(ノックダウン車両)  
8703.21.311 —–四輪駆動車 10%
8703.21.319 —–その他 10%
  —-CBU(完成車)  
  —–四輪駆動  
8703.21.331 ——新車 30%
8703.21.332 ——中古車 30%
  —–その他  
8703.21.341 ——新車 30%
8703.21.342 ——中古車 30%
8703.21.400 —モーターホーム 35%
—ゴーカート 8703.21.500 0%
  —その他  
  —-CKD  
8703.21.911 —–四輪駆動車 10%
8703.21.919 —–その他 0%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
8703.21.931 ——新車 30%
8703.21.932 ——中古車 30%
  —–その他  
8703.21.941 ——新車 30%
8703.21.942 ——中古車 30%
  –排気量が1000cc以上で1500ccを超えない  
8703.22.100 —救急車 5%
  —乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD  
8703.22.311 —–四輪駆動車 10%
8703.22.319 —–その他 10%
  —-CBU(完成車)  
  —–四輪駆動  
8703.22.331 ——新車 30%
8703.22.332 ——中古車 30%
  —–その他  
8703.22.341 ——新車 30%
8703.22.342 ——中古車 30%
8703.22.400 —モーターホーム 35%
  その他  
  —-CKD  
8703.22.911 —–四輪駆動車 10%
8703.22.919 その他 0%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
8703.22.931 ——新車 30%
8703.22.932 ——中古車 30%
  その他  
8703.22.941 ——新車 30%
8703.22.942 ——中古車 30%
  排気量が1500cc以上で3000ccを超えない  
8703.23.100 —救急車 5%
  乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD  
  —–四輪駆動車  
8703.23.341 2000ccを超えない 10%
8703.23.342 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
8703.23.343 2500cc以上で3000ccを超えない 10%
  その他  
8703.23.351 2000ccを超えない 10%
8703.23.352 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
8703.23.353 2500cc以上で3000ccを超えない 10%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
  ——新車  
8703.23.361 1800ccを超えない 30%
8703.23.362 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.363 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.364 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.23.371 1800ccを超えない 30%
8703.23.372 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.373 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.374 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
  その他  
  ——新車  
8703.23.381 1800ccを超えない 30%
8703.23.382 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.383 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.384 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.23.391 1800ccを超えない 30%
8703.23.392 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.393 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.394 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.23.400 —モーターホーム 35%
  その他  
  —-CKD  
  —–四輪駆動車  
8703.23.941 1800ccを超えない 10%
8703.23.942 1800cc以上で2000ccを超えない 10%
8703.23.943 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
8703.23.944 2500cc以上で3000ccを超えない 10%
  その他  
8703.23.951 1800ccを超えない 10%
8703.23.952 1800cc以上で2000ccを超えない 10%
8703.23.953 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
8703.23.954 2500cc以上で3000ccを超えない 10%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
  ——新車  
8703.23.961 1800ccを超えない 30%
8703.23.962 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.963 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.964 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.23.971 1800ccを超えない 30%
8703.23.972 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.973 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.974 2500cc以上で3000ccを超えない 30%

  その他  
  ——新車  
8703.23.981 1800ccを超えない 30%
8703.23.982 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.983 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.984 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.23.991 1800ccを超えない 30%
8703.23.992 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.23.993 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.23.994 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
  ★排気量が3000cc以上  
8703.24.100 ◆—救急車 5%
  –乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD  
8703.24.311 —–四輪駆動車 10%
8703.24.319 その他 10%
  —-CBU(完成車)  
  —–四輪駆動  
8703.24.331 ——新車 30%
8703.24.332 ——中古車 30%
  その他  
8703.24.341 ——新車 30%
8703.24.342 ——中古車 30%
8703.24.400 ◆—モーターホーム 35%
  ◆その他  
  —-CKD  
8703.24.911 —–四輪駆動車 10%
8703.24.919 その他 10%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
8703.24.931 ——新車 30%
8703.24.932 ——中古車 30%
  その他  
8703.24.941 ——新車 30%
8703.24.942 ——中古車 30%
  その他の自動車で、ピストン式圧縮点火内燃機関(ディーゼルエンジン及びセミディーゼルエンジン)を搭載したもの  
  ★排気量1500ccを超えないもの  
8703.31.100 ◆—救急車 5%
  –乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD  
8703.31.311 —–四輪駆動車 10%
8703.31.319 その他 10%
  —-CBU(完成車)  
  —–四輪駆動  
8703.31.331 ——新車 30%
8703.31.332 ——中古車 30%
  その他  
8703.31.341 ——新車 30%
8703.31.342 ——中古車 30%
8703.31.400 ◆—モーターホーム 35%
  ◆その他  
  —-CKD  
8703.31.911 —–四輪駆動車 10%
8703.31.919 その他 0%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
8703.31.931 ——新車 30%
8703.31.932 ——中古車 30%
  その他  
8703.31.941 ——新車 30%
8703.31.942 ——中古車 30%
  ★排気量1500cc以上で2500ccを超えないもの  
8703.32.100 ◆—救急車 5%
  –乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD  
  —–四輪駆動車  
8703.32.341 2000ccを超えない 10%
8703.32.342 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
  その他  
8703.32.351 2000ccを超えない 10%
8703.32.352 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
  —-CBU(完成車)  
  —–四輪駆動  
  ——新車  
8703.32.361 1800ccを超えない 30%
8703.32.362 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.363 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.32.371 1800ccを超えない 30%
8703.32.372 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.373 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  その他  
  ——新車  
8703.32.381 1800ccを超えない 30%
8703.32.382 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.383 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.32.391 1800ccを超えない 30%
8703.32.392 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.393 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
8703.32.400 ◆—モーターホーム 35%
  ◆その他  
  —-CKD  
  —–四輪駆動車  
8703.32.941 1800ccを超えない 10%
8703.32.942 1800cc以上で2000ccを超えない 10%
8703.32.943 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
  その他  
8703.32.951 1800ccを超えない 10%
8703.32.952 1800cc以上で2000ccを超えない 10%
8703.32.953 2000cc以上で2500ccを超えない 10%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
  ——新車  
8703.32.961 1800ccを超えない 30%
8703.32.962 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.963 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.32.971 1800ccを超えない 30%
8703.32.972 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.973 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  その他  
  ——新車  
8703.32.981 1800ccを超えない 30%
8703.32.982 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.983 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  ——中古車  
8703.32.991 1800ccを超えない 30%
8703.32.992 1800cc以上で2000ccを超えない 30%
8703.32.993 2000cc以上で2500ccを超えない 30%
  ★排気量2500cc以上のもの  
8703.33.100 ◆—救急車 5%
  –乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
  —-CKD  
  —–四輪駆動車  
8703.33.341 2500cc以上で3000ccを超えない 10%
8703.33.342 3000cc以上のもの 10%
  その他  
8703.33.351 2500cc以上で3000ccを超えない 10%
8703.33.352 3000cc以上のもの 10%
  —-CBU(完成車)  
  —–四輪駆動  
  ——新車  
8703.33.361 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.362 3000cc以上のもの 30%
  ——中古車  
8703.33.371 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.372 3000cc以上のもの 30%
  その他  
  ——新車  
8703.33.381 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.382 3000cc以上のもの 30%
  ——中古車  
8703.33.391 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.392 3000cc以上のもの 30%
8703.33.400 ◆—モーターホーム 35%
  ◆その他  
  —-CKD  
8703.33.911 —–四輪駆動車 10%
8703.33.912 その他 10%
  —-CBU  
  —–四輪駆動車  
  ——新車  
8703.33.941 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.942 3000cc以上のもの 30%
  ——中古車  
8703.33.951 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.952 3000cc以上のもの 30%
  その他  
  ——新車  
8703.33.961 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.962 3000cc以上のもの 30%
  ——中古車  
8703.33.971 2500cc以上で3000ccを超えない 30%
8703.33.972 3000cc以上のもの 30%
  -その他の車  
  –電気自動車  
8703.90.100 —救急車 5%
8703.90.200 ゴーカート 0%
8703.90.300 —モーターホーム 35%
  その他  
  —-乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
8703.90.410 —-CKD 10%
  —-CBU  
8703.90.421 ——新車 30%
8703.90.422 ——中古車 30%
  —その他  
8703.90.510 —-CKD 10%
  —-CBU  
8703.90.521 ——新車 30%
8703.90.522 ——中古車 30%
  –その他(電気自動車以外)  
  –乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない)  
8703.90.610 —-CKD 10%
  —-CBU  
——新車 8703.90.621 30%
8703.90.622 ——中古車 30%
  ◆その他  
8703.90.910 —-CKD 10%
  —-CBU  
8703.90.941 ——新車 30%
8703.90.942 ——中古車 30%

関税以外の諸税により、自動車の売価に直接介入するマレーシアの政策

上記は、関税について見てきましたが、関税以外の税金を輸入時や販売時にかけることで外から流入する量をコントロールすることもできます。マレーシアもこの方法を用いており、ASEAN域内、たとえばタイなどの自動車生産拠点となっている国から完成車が入ってくる場合、関税は建前上0%になっていますが、高額な物品税を課しています。

下表におけるMFN税率というのが、通常の関税率となり、ATIGAと書かれている欄はASEAN諸国間の自由貿易協定の一種でもあるATIGAを用いて関税の減免をはかった場合の関税率です。

関税がいくら減免されても、物品税と販売税で100%近い税率となっているのであれば、売価は単純に2倍以上になります。

自動車にかかるマレーシアの物品税と関税の比較

マレーシア自動車輸入時の税率(乗用自動車:ステーションワゴン、SUV、スポーツカーを含む。ただし、バンは含まない))
輸入関税 地方税
CBU(完成車) CKD(KD車両。分解して現地で組み立てる) CBU、CKD
エンジン排気量(cc) MFN関税率(一般関税率) ATIGA(ASEAN域内特恵税率) MFN関税率(一般関税率) ATIGA(ASEAN域内特恵税率) 物品税(Excise Duties) 販売税(Sales Tax)
1800cc未満 30% 0% 10% 0% 75% 10%
1800cc以上2000cc未満 30% 0% 10% 0% 80% 10%
2000cc以上2500cc未満 30% 0% 10% 0% 90% 10%
2500cc以上 30% 0% 10% 0% 105% 10%

マレーシアの自動車メーカーシェア|国産二大メーカー

タイやインドネシア等が自国の自動車メーカーを持たず、基本的に外資となる日系メーカーを誘致する形での自動車産業の定着を推進してきたのに対し、マレーシアには国産の自動車メーカーがあります。プロトン社(Proton)とプロデュア社(Perodua)の二大メーカーであり、自由貿易協定により関税が減免される以前は、マレーシアの自動車市場の8割近くがこれらの国産車であったと言われています。2006年から日系メーカーによる大々的な支援があり、ASEANにおける関税減免スキームであるATIGAの整備により、同国内での生産における自動車部品のサプライチェーンも出来上がっています。当時からの支援の流れで、現在も日系メーカーとは深いつながりのある二社ですが、そのシェアはここ10年で大幅に低下しています。

Proton(プロトン)
国産車が主流だった2000年代初めまでは、マレーシアにおけるトップシェアを持ち、凡そ6割がプロトン社のものとされていました。現在シェアは半減以下となり、ダイハツと提携しているPeroduaの躍進により、立ち位置が変わってきています。

Perodua(プロデュア)
Proton同様、国内市場メインの国産メーカーで、マレーシア政府の国策により守られてきましたが、輸出拡大の方針も出しています。アルザ、マイヴィ、ビバといった現行生産の3つの車種はいずれもダイハツの姉妹車。

マレーシア政府としては、二大メーカーに対する支援策を打ち切っているわけではありませんが、エコカー等のEEVの生産が可能な外資の自動車メーカーを自国に誘致する政策も新たに打ち出しているため、以前の画一的な保護政策とは方針が変わりつつあります。

新国家自動車政策(NAP)の動向

マレーシア政府の自動車産業政策は、近隣諸国の影響を強く受けており、国策としては「新国家自動車政策(National Automotive Policy、NAP)」を打ち出しています。前述の通り、マレーシアは自国内での市場規模に限度があり、自動車の輸出国として産業の定着・発展させていくには、タイやインドネシアの後追いでは難しい部分があります。

こうした環境下で2014年1月には最新の自動車産業政策となるNAP2014が発表されました。タイが世界有数のピックアップトラックの生産地となっているように、マレーシア政府はハイブリッドや電気自動車等のEEVで同様のことを進めようとする意図が見て取れます。

政府発表によれば、このNAP2014で自動車の輸出を少なくとも20万台規模で行い、自動車部品の輸出についてはRM10億を2020年までに目指す、としています。中でも目玉としているのは「マレーシアをエコカーの生産ハブとする」という構想です。マレーシア国内での生産される自動車の85%をこうしたエコカー(EEV)にするというもので、2020年を目標年限としています。

具体的には、自国で組立てられる特定の車の物品税に対して優遇措置を設けることで、自動車の販売価格に直接介入する政策をとっています。マレーシアは自動車の物品税は高いものでは120%にもなるため、その減免の有無が直接進出企業・販売企業に影響します。ASEAN内の貿易で関税の減免を受けたとしても、高額な物品税を吸収するのは困難なため、自国で生産・組み立てられた車に競争力を持たせたい考えです。

最新のNAP2014によれば、国内で組立されている完全ノックダウン(CKD)のハイブリッド車、電気自動車に対して、前者は2015年末まで、後者は2017年末まで物品税を免税する、というものです。以前より、日系メーカーは完成車としてマレーシアにこれらのハイブリッドを輸入しており、これまでのNAPではこうした完成輸入車に対してもEEVということで税の優遇がありました。この輸入完成車に対する優遇税制が2013年末で終わり、マレーシア政府は次のステップとして自国をハイブリッドや電気自動車等のEEVの生産ハブへとステップアップさせる意図があります。

マレーシアにおける自動車関税動向

多くの国で自動車の関税は従価税方式を採用している為、数量が多く、一台あたりの価格も高価となる自動車の関税は、生産拠点をどこにするのかという問題に直結するほど大きなインパクトとなります。
関税が輸送費をはるかに上回る典型的な物品の一つです。例えば、日系メーカーは高級車を韓国へ輸出する際、日本からではなく、わざわざEUや米国で生産したものを輸出している例がありますが、これも関税額によるところが大きいといえます(韓国はEUや米国とFTAを締結)。

マレーシアの自動車関税は、日‐マレーシア協定やASEANにおける関税減免のスキームであるATIGAにより減免可能で、MFN税率自体も車種(用途)と排気量によって10%~30%に設定されています。一方、自動車の物品税は車種により65%~120%の高税率をかけているため、今後も関税のみではなく、自動車分野の市場アクセスについてはこれらとあわせて見ていく必要があります。

自動車部品の関税動向

自動車には1台あたり2万点を超える部材を用いる上、それぞれの部品についてHSコードが異なり、また同じ系統の部材でも違うHSコードを振ることがある為、「自動車部品」全体としての関税率や平均関税率を出すことが困難です。

 部分的に見ていくと、インドネシアやタイと比べ、工業製品、工業部品の多くは30%の関税率が維持されているものもあり、MFN税率自体は安い方ではありません。一方で、EPAやFTAによる個別協定を用いた場合には、関税そのものは大きく低減され、現在では多くがゼロにすることが可能です。

新政策では自動車そのものには大きな物品税をかけることで、自国でのEEV生産を促し、自動車部品についても輸出取引の拡大を謳っているため、今後自動車メーカーの動向によってはEEV仕様の部材需要の増加が予測されます。また、自国産業の育成のためには、産業分野によって保護主義的な政策がとられることがある為、動かしにくい関税以外の税制については注視していく必要があります。