EPA申請における社内運用ルールをどうすべきか

個人で商売をやっているのであれば、さして問題にもなりませんが、企業でEPAの判定申請や発給申請を行う場合、複数名で行うことも珍しくなく、また実施する部署によって、EPAの制度の理解度に差があると思わぬトラブルにつながることがあります。関連する法令を遵守し、非違が起きないような社内ルールをしっかり構築して運用していく必要があります。

何か違反があった場合は、自社と相手側(顧客や海外の拠点等)の双方に罰則が課せられます。多額の輸出入を行っている企業にとっては、品物によって関税額が輸送費よりもはるかに大きいこともあり、EPAを用いることの恩恵は軽く数億円を超えてきますが、違反があった場合の罰則金はこうした恩恵を受けた金額を大きく上回ってしまうこともある、ということです。

社内ルールというのは、つまるところ、協定(条約)と日本の国内法、相手国側の国内法を遵守しつつ、スムーズに輸出品に対してEPAの適用を推進するための仕組みのことです。

極論すれば、「原産地規則」をどのようにして守り、その証明に必要な証拠書類を正しく理解し、保管しておくということに尽きます。自由貿易協定や経済連携協定などの、関税を減らすことができる協定というのは、その協定を結んでいる国同士の「原産品」にしか適用されません。その「原産品とは何か」を定義したルールが原産地規則で、協定ごと品目ごとに固有のルールが設けてあります。

いけいけどんどんで、遵守すべき法令がよくわからずに「とにかくEPA適用させて免税を」というスタンスの企業もありますが、原産性の判定方法が間違っている等の話になれば、減免効果をはるかに上回る罰金をあとから支払うことにもつながりかねません。

実際のところ、故意・過失を問わず、貿易協定というのは破りやすい法令・ルールであるということ、その罰則も国ごとに違うということを管理者の方は肝に銘じておくべきです。

故意の場合というのは、申請時に担当者の裁量が大きいこともあり、例えば中国製のものを日本製であると偽った申請も簡単にできてしまう、ということです。そこまで露骨でなくとも、部材の一部分の原産性の解釈を変えてしまう、判定に都合の悪い部品を申請書から抜いてしまうといったことが容易くできてしまいます。

こうした細部をうがつようなチェックは発給機関(日本商工会議所)では行いませんので、企業側の良心にまかされていますが、万が一、現地から問い合わせや照会があり、こうした細工が発覚すれば、高額の反則金やEPAの利用ができなくなる恐れもあります。当然、悪質なことをやっていたのであれば、その企業が申請した過去の分もすべて洗い出したくなるのが取り締まる側の心情です。

過失の場合というのは、原産品判定のルールの理解が乏しいために起こることが多く、例えば付加価値基準の計算方法を誤解していた、計算を間違えていた、関税分類番号変更基準における構成要素や部品の考え方が間違っていたというようなことです。これは社内にこうしたことを担当する部署がなかったり、会社としてノウハウをきちんと蓄積し社内啓蒙・教育していないような場合に起こります。

過失や何かのミスだったといっても、それは通じませんので、しかるべき罰則を受けることに変わりはありません。

また為替相場の大きな変動によって購入している部材の原産率が変わってしまい、結果として日本製という認定を受けられなくなっているにも関わらず、継続して日本製のものとしてEPAの適用申請を受けていた、というようなケースもあります。

上記のようなことを防ぐためにも、EPAを積極的に活用している企業はコンプライアンスの部分にも注力していく必要性がますます高まっています。というのも、前述したとおり、破りやすい法令であることを逆手により、日本の原産性がなかったり、証拠書類がなかったりするようなものでも現実には多数申請がなされているため、現地税関からのチェック要請である「検認」と呼ばれる件数が急増しているという話も聞きます。現地税関としても摘発して反則金をとることが確実にできそうな案件に注力したいのが心情でしょう。

社内ルールの整備に際して、EPAにおける業務の内容を見ていくと、まず、日本におけるEPAに関する業務というのは、「特定原産地証明書」を発行して現地の輸入申告までに、現地側の通関業者へ届けるまでのプロセスを指します。

このプロセスは大きく分けると、「判定申請」と「発給申請」の二つがあります。判定申請のためには「調査・研究」といった部分もありますが、適用における実務では「判定」と「発給」の申請が仕事となります。

「判定申請」とは、その製品が日本製か、相手国の原産品であるということを証明するための申請です。貿易協定の条文に照らし合わせ、その品目の原産地規則を調べ、社内外からエビデンスとなる書類を集め、日本商工会議所へ申請を行います。判定申請に通過すれば、発給申請を行うことができるようになります。

「発給申請」は、判定申請に合格した品目についてのみ行うことができるもので、実際の原産地証明書の交付を受けるための申請です。インボイスやB/Lに記載されている内容が必要になるため、輸出部門や出荷部門が担うことが多いと思います。

社内における運用ルールを検討するのであれば、どの部門が社内でEPA適用申請の承認を行うのか、またその方法はといったところと、判定申請、発給申請を行うことができる部門や担当に関するルール決め等からになると思います。

EPA業務自体を一元化してどこかの部署が一手に引き受けるという方法、あるいは判定や発給などの実務上の手続きは複数の部署から行うことができるようにする方法、承認や判定内容の管理をする部署を別に設ける方法、などさまざまなケースが考えられます。

EPAは日本側の罰則は最大でも50万円の罰金となっていますが、現地側では場合により非常に大きなペナルティを課せられることもあり、毎回輸出品ごとに、日本における原産性をきちんと証明できる資料もあわせて揃え、5年間は保管しておく義務があります。こうしたチェックと管理をどのように社内で行っていくのかという運用ルールが求められます。