自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)の基礎知識 › フォーラム › 貿易協定についての情報交換・質問掲示板 › TPPで利益の出る企業はどれくらいあるのか › 返信先: TPPで利益の出る企業はどれくらいあるのか
ご意見ありがとうございます。
生産拠点のグローバル化に伴って、それに用いる材料や設備、部品、生産財全般は現地調達化が進んでいくものと思います。日本から供給する(輸出)する量・金額がそもそも減少していく環境にある、というのは海外生産拠点や販売拠点の売り上げが日本国内の拠点よりも上回っている企業では、業界関係なく、共通している現象かもしれません。実際、グローバルに展開している日本企業、特に製造業の多くはこういう状況ではないかと推察します。
かくいう当社でも、日本-海外間の貿易総額よりも、海外の生産工場同士でやり取りする貿易額のほうがはるかに大きくなっています。海外の顧客(日系、非日系問わず)も現地での納入体制を希望されているため、一部、海外で生産した部品を日本へ輸入してからまた輸出することはありますが、納入も海外現地法人ー海外顧客間が最も大きくなります。また、海外法人での生産財「現地調達化」は本社、現地問わず優先度の高い課題となっているため、いずれは日本からの部材の輸出をなくす、というのが目標にもなっています。
TPPについて物品貿易分野で、関税側面でのメリットを見ていく場合は、上記の状況に加えて、この協定での日本にとってもっとも関心事の高い国の関税がそもそもどうなっているのかという点も考慮する必要があります。
貿易協定として見た場合、TPPが新たに締結されることで大きなインパクトがあるのは日-アメリカ間です。他の交渉国の多くとは、すでに日本はEPAを締結しています。多国間協定は、二国間協定よりも関税譲許の面ではほとんど有利にすることはできません。したがって、二国間協定をすでに結んでいる国へはTPPではなく、すでに締結済みの協定を使ったほうが有利になる可能性があります。原産地規則に、地域間累積のような救済規定を入れて、加盟国すべての原産割合を部材に含ませることができるのでは、という期待もありますが、実務をやられている方にはお分かりのとおり、累積規定はほとんど使い物になりません。素材・部品レベルでTPP参加国の複数国の原産品であったとしても、それを証明する証拠書類の収集がほとんどのケースでできないからです。例外的に、資本関係のある会社がTPP加盟国の中に散らばって存在しており、それら企業から部材を直接輸入して製造するような場合は、「原産割合」の計算にも組み込める可能性があります。
シンガポール:発効済。そもそもほとんと関税はかからない。
ニュージーランド:未。どちらかといえば日本へ酪農品を輸出したい。当該国に自動車部品メーカーが生産拠点を構えるメリットもないのでは。
チリ:発効済
ブルネイ:発効済
米国:未
豪州:日-オーストラリア協定は締結済。発効待ち。
ペルー:発効済
ベトナム:発効済
マレーシア:発効済
メキシコ:発効済
カナダ:未
こうした状況で、米国側の関税を調べて見ると、自動車部品の多くは一桁台の低関税率が適用されており、貿易額がそれなりになるのであれば、関税とMPFを大きく減らせる可能性はありますが、自動車そのものは、自動車メーカーが現地に生産工場を持っており、完成車にしても、KD車にしても直接は日本からはあまり輸出していないため、TPPによって輸出企業の利益が増えるか、というのは産業分野と、貿易品目・金額によるということになるかと思います。
日本ー米国は自動車貿易に関する摩擦の歴史があり、日系自動車メーカーは生産拠点・開発拠点を米国内に複数持っています。自動車分野、自動車部品分野の輸出に限っていえば、いまさら大きなインパクトは出にくいのではないかと思います。
また日本への逆輸入や、輸入によるビジネスを考えた場合、そもそも日本はこの分野での関税をほとんどの品目で0にしています。関税0でも輸入時に消費税はかかりますので、むしろ消費税が10%になるほうが影響が大きいのではないでしょうか。
ただ、TPP参加国の中で、たとえばマレーシアやベトナムに生産工場をもっており、米国へ直接輸出するようなスキームを用いている場合、これらの国と米国の間には自由貿易協定や特恵貿易協定はありませんので、関税はあらたに減免できる可能性はあります。