日インドEPA協定|日インド経済連携協定

日インド協定は、正式には「日本・インド包括的経済連携協定」、英語では”COMPREHENSIVE ECONOMIC PARTNERSHIP AGREEMENT BETWEEN JAPAN AND THE REPUBLIC OF INDIA”と呼ばれる経済連携協定の一つです。略称は、IJCEPAとも称されます。

このタイプの地域間協定は、包括的経済連携協定(Comprehensive Economic Partnership Agreement)の頭文字を取ってCEPAとも呼ばれます。

日本が締結しているEPAの中では2番目に新しく、2011年8月1日から発効されているため、関税が完全に撤廃されている品目が少ないですが、インドは基本関税のほかにも輸入時に「相殺追加関税」「教育目的税」「特別追加関税」が課せられます。これら諸税は基本関税が上乗せされた金額に対して掛けられるため、基本関税が下がれば相対的に関税総額の低減が可能です。

日インド協定は他の東南アジア諸国との協定に比べて、発効年が新しいこともあり、工業製品の多くは即時撤廃ではなく段階的撤廃となっているため、十分な低減効果が見えにくくなっていますが(特に東南アジア諸国とのEPAに比べると即時関税撤廃品目が少なく、下げ幅も小さく感じられますが)、前述のとおり、基本関税が下がることで、他の追加関税の金額も下がることになるため、インド側で輸入時に支払うことになる関税諸税の総額である実行関税率がどのくらい下がるのかという点に着目して進めていくべき協定です。これについては、金額の大きなものほど効果が大きくなるため、設備や機械などの大物から、売買価格の大きなものについては毎回検討する価値はあるかと思います。

日インド協定においては、こうした低減率の低さや発効から日が浅いために低減効果が見えにくいことのほか、貿易関係者がこの協定の利用に二の足を踏むことになるネックの一つに、原産地規則があります。工業製品の多くは、多数の材料や部品から構成される集合体が製品となるケースが多いですが、この際、原産地規則に厳しい基準や証明に手間のかかる手法が採用されていると、実際の手間に見合った低減効果が得られないことが考えられます。

具体的に原産地規則のハードルが上がっている点としては、一般規則において関税分類番号変更基準と、付加価値基準の二基準を同時に満たすという点が挙げられます。実務上、双方のエビデンスが必須とされるよりも、どちらが一方となっている協定のほうがはるかに原産地証明書申請時の負担は減ります。

近年は特にEPAの適用基準を満たさないにも関わらず特恵税率を適用させて当局から摘発されるケースも出てきており、原産地を証明することのできるエビデンスの不備は思わぬトラブル、当該国の関税法においては無申告扱いや過少申告扱いでの高額罰金につながることもあることから、社内等で運用手順を確立した上で、エビデンス類を保管の上、適用申請を行っていく必要性が高まっています。

なお、日本からの輸出では十分な低減効果が見込めない場合で、東南アジア諸国等にも生産拠点、輸出拠点がある場合は、インドが貿易協定を締結する他の国から輸出を行うという方法もあります。インドはASEAN諸国(10カ国)を対象にした自由貿易協定のほか、個別にタイ、シンガポールとも協定を締結しています。

生産拠点が多く集中する中国との間には、APTAと呼ばれるアジア太平洋貿易協定(バンコク協定で知られる、中国、バングラデシュ、インド、韓国、スリランカの多国間協定)があり、これはいわゆる自由貿易協定ではありませんが、一定の品目について通常の関税率よりも安い関税率を適用する特恵貿易協定です。品目によっては大きな低減率を持つものもありますので、金額のはるものを輸送する場合、一度検討されてみるのもよいでしょう。

対象国

日本、インド

使用されるHSコードのバージョン

HS2007(交渉締結時に用いられていたHSコードのバージョン)
インド側輸入時に使われるHSコードは8桁、日本側輸入時に使われるHSコードは9桁となります。EPAでは世界共通項となる6桁までしか使いませんが、関税率の特定にはHSコードのフルナンバーが必要となることもあります。

輸出通関、輸入通関時に使われる現行HSコードのバージョンとの違いについては他の協定と同様に問題なく利用可能ですが、トラブルを避けるため、同一のHSコードへ統一することもあります。

発効日

2011年8月1日

関税率が変わる日付

毎年4月1日。低減スケジュールのある品目のみ。ただし、HSコードの項番8408、2020、8708、4000は除外されます。

関税の計算方法

インド側の関税率

評価額はCIF価格+荷揚げ費用(CIF価格の1%)となりますので、これに品目ごとの基本関税率を掛けて乗せた金額に対し、諸税を乗せていく方式です。
基本関税率【Basic Customs Duty】
教育目的税【Education Cess 2%、Secondary and Higher Edu. Cess 1%=合計で3%の固定税率】
相殺追加関税【Countervailing Duty (CVD)】
特別追加関税【Additional CVD】

計算例:(CIF価格)+(CIF価格 x 1%)が100万USD、基本関税率7%の場合

100万USD x 7% =7万USD (基本関税)

(100万USD + 7万USD) x 12% = 12.8万USD = 相殺関税(CVD)

(7万USD + 12.8万USD)x 3% = 0.59万USD = 教育目的税

(100万USD + 7万USD + 12.8万USD + 0.59万USD)x 4% = 4.8万USD = 特別追加関税

実行関税額 = 7万USD + 12.8万USD + 0.59万USD + 4.8万USD = 25.2万USD

日本側の関税率

CIF価格に関税率をかける従価税方式が一般的ですが、品目によって従量税、スライド関税、混合税等もあります。

CIF価格に関税を上乗せした金額に対し、消費税が加算されます。関税率が0だとしても、輸入時のCIF価格には必ず消費税が上乗せされます。

計算例:CIF価格が100万円、関税率5%の場合
100万円 x 5% = 5万円(関税額)
(100万円 + 5万円)x 消費税率 = 消費税額

原産地証明書の発給機関

  • 日本:日本商工会議所
  • インド:Department Of Commerce, Ministry of Commerce and Industry(商工省商務局)

原産地規則

品目別規則(PSR:Product Specific Rules)の項目に規定のある品目はその原産地規則に従い、記載がない場合は一般規則に従います。

一般規則

付加価値基準(QVC)35%以上、CTC基準(CTSH基準、HSコードの号変更、6桁レベルでの変更)を同時に満たすこと。

品目別規則

品目によって異なるため、協定条文に書かれているHSコードから特定していくことになります。ここに記載のあるものは、一般規則よりも緩い基準になることもあれば、若干原産地比率が上げられているものもあります。

救済規定などの特別規定の有無

累積

使用可能。締結国の一方の国の原産品は、もう一方の国においても原産品となります。

僅少の非原産材料(デミニマス規定)

使用可能。品目によって、価格の7%、10%、重量の7%に満たない「非原産」の部分は、非原産材料としてカウントしなくともよいことになっています。どの品目においてどのルールが適用されるのかは協定条文によって規定されています。

日インド協定による税率

タリフスケジュール|譲許表|関税低減スケジュール

適用可能な物品が決まる「原産地規則」とならび、どのようなスケジュールで品目ごとの関税の低減を行っていくかを示した表が「譲許表」と呼ばれ、英語ではtariff scheduleと表記されます。この表にはHSコードごとに下記のような記号が付記されており、それぞれ低減スケジュールが異なることを意味します。

日インド協定における関税低減と撤廃のパターン
記号 意味
A  発効日に関税が即時撤廃されている品目のカテゴリー
B5 関税を無税にするまで6回に分けて発効日から毎年均等に関税率を低減していく品目
B7 関税を無税にするまで8回に分けて発効日から毎年均等に関税率を低減していく品目
B10 関税を無税にするまで11回に分けて発効日から毎年均等に関税率を低減していく品目
B15 関税を無税にするまで16回に分けて発効日から毎年均等に関税率を低減していく品目
Pa Pb  これが記載されている品目は個別にルールが設定されている品目(インド側のみ)
例:HSコード87084000(ギヤボックスとその部品等)
X 関税撤廃や低減の交渉からは除外されている品目。この協定による関税率の低減は無し。

日本側の関税低減スケジュール(日本輸入時)

インド側の関税低減スケジュール(インド輸入時)

その他、インドへの輸出に関して

日系企業等で見られるトラブルとして、親会社である日本から子会社となるインドの現地法人へ物品を送る場合、SVB(Special Valutaion Branch)の承認が必要となりますが、これがない場合に使われるP. D Bond(Provisional Duty Bond)は税関ごとの登録が要ります。インドで今まで使ったことのない税関経由にて貿易を行う場合、P D Bondがないばかりに通関できないといったトラブルに見舞われることがあります。

この登録作業には多くの書類提出が必要となるため、通常は物品の現地到着前に手配し完了しておかないと、納期等に支障をきたす可能性があります。

日本・インド包括的経済連携協定の情報ソース、関連リンク