トルコのFTA

トルコはEUとの関税同盟に加盟する一方、中東との貿易も活発な国ですが、同時に年々の貿易赤字も問題化しつつあります。特に貿易赤字が膨らむ相手国としては、輸入金額の多い中国、米国、ドイツ、イラン、ロシア等が上位を占めます。

トルコは長らく、EU加盟候補国であり(現在も最有力候補国の一つ)、外交上、ヨーロッパと中東との双方と友好的な関係にあります。

地勢学的にも貿易上も中東と欧州を結ぶ要衝にあり、国土を接するイラクをはじめとする中東からの輸入、EU市場向けの自動車、家庭用電機製品の輸出拠点として重要性を増しています。エネルギー回廊の中継地としての役割も持ちます。

また、同国の周辺地域にはトルコ系民族国家、例えばカザフスタン、キルギス、アゼルバイジャン、トルクメニスタンなどがあり、中東に対してはイスラム圏としての共通性もあります。北アフリカ地域に対しては、マグレブ諸国の一つであるチュニジア、モロッコとの間で連合協定を締結しています。

自動車、電機、機械、鉄鋼、建設などの分野での企業進出が進み、こうした企業に供給する部品・材料メーカーなどの外資系企業の進出も進みますが、中東諸国とのFTA、EPA協定は、現在のところあまり多くはなく、ヨルダンやレバノンといった国に限られています。輸出額の大きいイラクとの間には協定は未だ締結されていません。
なお、トルコはWTOの協定により、情報機器や通信機器に関しての輸入関税を撤廃しているため、これらの輸入には関税はかかりません。

日本との間でもEPA締結を視野に入れた共同研究がスタートしています。

トルコのFTAの締結国、交渉国の一覧

トルコのFTAの締結国、交渉国
締結国、交渉国 協定状況
アルバニア 2008年発効。FTA
ボスニア・ヘルツェゴビナ 2003年発効。FTA
チリ 2011年発効。FTA
クロアチア 2003年発効。FTA
EFTA 1992年発効。FTA
エジプト 2007年発効。FTA
グルジア FTA。2008年発効
イスラエル 1997年発効。FTA
ヨルダン 2011年発効。自由貿易圏創出のための連合協定
レバノン 2010年に署名。批准プロセス待ち。自由貿易圏創出のための連合協定
マケドニア 2000年発効。FTA
モーリシャス 2011年署名。発効待ち。FTA
モンテネグロ 2010年発効。FTA
モロッコ 2006年発効。FTA
パレスチナ 暫定FTA。2005年発効
韓国 FTA(枠組み協定)2012年署名。2013年初頭の発効を目指す。
セルビア 2010年発効。FTA
シリア 2007年発効。連合協定。
チュニジア 連合協定。2005年発効
日本 共同研究。2012年11月第1回会合開催

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カナダのFTA

カナダは総輸出額がGDPの3割弱を占めるという先進諸国の中では貿易依存度の高さが目立つ国で、中でもNAFTA成立後は対米依存度も大きくなっています。

現在のところは世界最大の自由貿易圏となっているNAFTAの一員であり、FTA・EPA交渉については発効済の協定よりも交渉中のもののほうが多い状況からも伺える通り、二国間をはじめ、多国間協定の締結にも積極的です。

交渉国によってはFTAだけでなく、環境や労働の分野の協定交渉も並行して行い、締結をしています。

日本との間でも交渉が行われており、関税の減免に止まらない、幅広い経済連携協定の締結を模索しています。

カナダのFTA締結国、交渉国の一覧

カナダとFTAを締結、交渉、検討している国や地域
締結国、交渉国 協定状況
ヨルダン 2012年発効。FTA
コロンビア FTA。2011年発効
ペルー 2009年発効。FTA
EFTA 2009年発効。FTA
コスタリカ 2002年発効。FTA
チリ 1997年発効。FTA
イスラエル 1997年発効。FTA
NAFTA 1994年発効。FTA
米国 1989年に発効しているが、NAFTAがこの協定に取って代わる。FTA
ホンジュラス 2011年交渉完了。発効待ち。FTA
パナマ 2008年交渉開始。2010年署名。FTA
アンデス共同体 2007年交渉開始。ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー。
CARICOM(14カ国1地域で構成されるカリブ共同体) 2007年交渉開始。アンティグア・バーブーダ、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ドミニカ国、グレナダ、ガイアナ、ハイチ、ジャマイカ、セントクリストファー・ネーヴィス、セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、スリナム、トリニダード・トバゴ、モンセラット(英領)※バハマ、ハイチ、モンセラット等単一市場の枠組みには参加しない国・地域もある。
CA4(中央アメリカ4) 2008年交渉開始。FTA。エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア
FTAA アメリカ自由貿易圏(米州自由貿易圏)。34の政府で構成される貿易圏。現在交渉を再開するため調整中。
ドミニカ共和国 2007年交渉開始。FTA
EU 2009年より交渉中。CETA(包括的経済貿易協定)包括的経済連携協定
インド 2010年交渉開始。FTA
日本 2012年交渉開始。EPA
韓国 2005年交渉開始。FTA
シンガポール 2001年交渉開始。FTA
TPP(環太平洋自由貿易協定) 2012年にメキシコとともに交渉に加わる。多国間協定、FTA。オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナム
トルコ 交渉前段階。事前協議中。FTAを進めることに興味。
ウクライナ 2010年交渉開始。FTA
カナダ-コスタリカ自由貿易協定(更新) 2011年現存する協定を更新することに合意。2002年に発効した協定は、第1世代のFTAで、具体的には物品のみの関税低減についてのものになっており、投資や政府調達、サービスなどが盛り込まれていなかった。
GSP(一般特恵関税制度) GSPのスキームが適用可能。多くの開発途上国からの物品に対して、関税をごく低いレートに設定しているか、関税なしでカナダ国内へ入れることができる。

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マレーシアのFTA、EPA

マレーシアは領土が狭く、市場も小さいため、貿易への依存度が高く、貿易額は実にGDPの2倍以上にもなります。このため、通商政策として、各国との貿易協定の締結も積極的に行っています。

多くのWTO加盟国と同様に、原則としてはWTOによる貿易自由化に協調しつつ、実際にはWTOによる多国間の具体的な自由化が難しく世界共通の枠組みの創出が停滞している為、地域間、二国間協定で補完するという位置づけで各国とFTAを交渉、締結しています。

同国ではFTA締結の目的としては、関税、もしくは非関税障壁などの撤廃によるよりよい市場アクセスの創出、貿易・投資・経済発展の促進、マレーシア輸出者の競争力向上などを掲げています。

マレーシアの二国間協定は6カ国との間で発効しており、現在交渉中のものは5カ国(地域)になります。

なお、マレーシアの輸出品にGSP(一般特恵関税制度)が適用可能、つまりマレーシア産のものに特別に安い関税率であるGSP税率が適用可能な国は、オーストラリア、日本、カナダ、ノルウェー、EU、スイス、トルコ、ニュージーランドとなっています。

また、マレーシアはASEANの加盟国10カ国のうちの一つであり、ASEANが締結しているFTA協定やEPA協定を活用することもできます。

マレーシアのFTA締結国、交渉国

マレーシアのFTA締結国、交渉国の一覧
締結国、交渉国 協定概要、状況
日本 EPA。MJEPA(マレーシア-日本経済連携協定)2006年発効
パキスタン MPCEPA(マレーシア-パキスタン経済緊密化協定)2008年発効。EPA。
ニュージーランド MNZFTA(マレーシア-ニュージーランド自由貿易協定)2010年発効
チリ MCFTA(マレーシア-チリ自由貿易協定)2012年発効
インド MICECA(マレーシア-インド包括的経済協力協定)、2011年発効
オーストラリア MAFTA(マレーシア-オーストラリア自由貿易協定)2013年1月発効。
D8特恵貿易協定(PTA) イスラム諸国による8カ国間のPTA(特恵貿易協定)。バングラデシュ、インドネシア、イラン、マレーシア、エジプト、ナイジェリア、パキスタン、トルコ。特定の産品につき段階的に関税障壁を取り払うことを目的とする。マレーシアでは2008年批准。
TPS-OIC(OIC諸国=イスラム諸国会議機構での特恵貿易システム) 枠組み協定としては2002年発効。現在までに25のOIC諸国が枠組み協定の批准を行う。
アメリカ 通常、米国がFTAを締結する前段階で結ばれることの多い投資協定は2004年に調印済。2006年から交渉開始されるが、交渉は一旦中断となっている。TPP協定ではマレーシア、米国とも参加しているため、こちらでの交渉がメインになる予定。
トルコ 2010年からFTA交渉開始。継続中。MTFTA(マレーシア-トルコ自由貿易協定)
EU 2010年FTA交渉開始。2012年時点では7回目の交渉が完了。13の作業部会を作り、交渉を継続している。

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シンガポールのFTA

シンガポールは貿易立国であり、各国の仲介貿易のハブとしても優れた機能を有しています。通商協定の締結に関しては非常に積極的であり、ASEANの加盟国でもあるため、ASEANの締結するFTAや経済連携協定の活用も出来ます。ハブとしては、具体的にはリインボイス、バックトゥバックの双方が適用できるため、世界随一の機能を持ちます。

幅広いFTAネットワークとともに金融、流通、製造業を中心に直接投資を誘致しており、日本の直接投資先としてもASEANで最大の規模を持ちます。輸出の6割がFTA発効先という戦略的な通商政策を行っており、チリと並び、FTAでカバーする経済圏、貿易圏の広さは世界随一です。今般、EUとの間でもFTA締結合意に至り、2014年発効を目指し調整が行われています。

税制についても外資誘致のほか、企業が活動しやすくなる点を重視した制度設計となっています。

通常の関税は、アルコールなど6品目に対してのみかかり、あとは原則的に関税はかかりません。関税のほかには、物品税というものがあり、これはシンガポール内で流通する物にかかる税のことで、事実上、アルコール、タバコ、自動車、石油製品の4種類以外のものには関税はかからない仕組みになっています。

また上記のものでも、FTA協定を結んでいる国からのものや特恵関税が適用できる国からの輸入であれば、これらについても関税が低減されます。

シンガポールのFTA締結国と交渉国

シンガポールのFTAの一覧(締結、交渉、発効)
締結国、協定国、交渉国 状況
中国 2009年発効。FTA、経済連携
GCC 2006年交渉開始。バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、UAEとの間で2008年に署名。発効待ち。
EFTA 2003年発効。FTA、経済連携
GSTP いわゆるGSP
インド 2005年発効。FTA、EPA
日本 2002年発効。FTA、EPA
ヨルダン 2005年発効。FTA、経済連携
韓国 2006年発効。FTA、経済連携
ニュージーランド 2001年発効。FTA
パナマ 2006年発効。FTA
ペルー 2009年発効。FTA、EPA
オーストラリア FTA、EPA。2003年発効
アメリカ 2004年発効。FTA、EPA
メキシコ 2000年よりFTA交渉中。現在までに第6回の会合を行っている。
TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership) 2006年にニュージーランドとの間で発効、またブルネイ、チリとの間でも同年に発効。他の参加国とは交渉中。
コスタリカ FTA。2010年署名
カナダ FTA交渉中。2001年交渉開始。2007年までに8回の交渉が行われる。現在のところ次の交渉会合は未定。
ウクライナ 交渉中。2007年にFTA交渉開始。第3回まで交渉実施済。
パキスタン 2005年よりFTA交渉中。3回会合を開催。
台湾(ASTEP) 2011年より交渉。台湾・シンガポール経済パートナーシップ協定(ASTEP)。

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オーストラリアのFTAとEPA

オーストラリアの通商政策の在り方は、「多国間の協定を優先し、二国間交渉は多国間協定を補助して質の高い真に自由化された協定を目指す」というものです。ドーハ開発アジェンダ(ドーハラウンド)による多国間貿易交渉が関税撤廃等の具体的な成果に結びつかず停滞していた時期に、他国と同様、二国間FTAの締結が活発化し、現在に至ります。

現在は、大型の多国間協定でもあるTPP交渉に注力するオーストラリアですが、日本との間でもEPA交渉は継続中です。ほかに、FTA・EPA協定としてはチリ、ニュージーランド、米国、ASEAN、シンガポール、タイ、マレーシアとの間で締結しています。同じ英連邦であり、隣国であるニュージーランドとも緊密な連携を行っています。

オーストラリアは、北アジアの主要国である中国、日本、韓国とも強力な関係を持っていますが、同国の認識ではこれらの諸国は重要な市場でもあります。ただ、現時点では中国、日本、韓国のいずれとも協定は交渉中で、締結には至っていません。

またオーストラリアは、東南アジアではインドネシアやその他のASEAN加盟諸国とも、活発で永続的な二国間の緊密な関係を維持しています。発行済みの唯一の多国間協定であるAANZFTAも、同国-ニュージーランド-ASEAN間の地域協定です。経済圏の規模として大きい米国との間でも、AUSFTAを結んでいます。

オーストラリアのFTA締結国、交渉国

締結国、協定国 略称 状況
オーストラリア-ニュージーランド CER 1983年発効
オーストラリア-チリ ACLFTA 2009年発効
オーストラリア-米国 AUSFTA 2005年発効
オーストラリア-シンガポール SAFTA 2003年発効(修正案は2011年9月発効)
オーストラリア-タイ TAFTA 2005年発効
ASEAN-オーストラリア-ニュージーランド AANZFTA 発効:オーストラリア:2010年1月
ニュージーランド:2010年1月
ブルネイ:2010年1月
ミャンマー:2010年1月
マレーシア:2010年1月
フィリピン:2010年1月
シンガポール:2010年1月
ベトナム:2010年1月
タイ:2010年3月
ラオス:2011年1月
カンボジア:2011年1月
インドネシア:2012年1月
オーストラリア-マレーシア MAFTA 締結済。2013年1月発効予定。
オーストラリア-中国 ACFTA 交渉継続中。2005年から正式にFTA交渉開始に合意。
オーストラリア-日本 AJFTA 交渉継続中。2007年から交渉開始。直近では2012年6月に第16回目の会合。
オーストラリア-韓国 AKFTA 2009年から正式に交渉開始。交渉継続中だが、2010年5月以降、公式な会合は行われていない。
オーストラリア-インド AIFTA 2011年5月に交渉開始で合意。交渉継続中。
オーストラリア-インドネシア IA-CEPA 2007年8月に共同研究を開始し、2010年に交渉開始で合意。
環太平洋戦略的経済連携協定 TPP 2008年11月、第20回APEC閣僚会議にて参加を表明。2012年1月時点で、P4(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール)、オーストラリア、ペルー、米国、ベトナム、マレーシアが交渉に参加。日本、カナダ、メキシコが交渉参加を公式に表明。
AUSTRALIA-GCC FREE TRADE AGREEMENT NEGOTIATIONS(湾岸協力会議) AGCCFTA 2007年第1回交渉開始。但し、公式の会合は2009年6月以来開催されていない。
PACIFIC AGREEMENT ON CLOSER ECONOMIC RELATIONS PLUS NEGOTIATIONS PACER PLUS 2010年4月、10月、2011年3月、2012年3月に会合。交渉継続中。

オーストラリアへ輸入時にかかる関税、諸税

輸入時には関税のほかに、VAT(付加価値税)の一種であるGST(商品サービス税)が加算されます(GSTは10%)。

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香港のFTA

香港はイギリスから返還後、現在は中国の領土の一部ではありますが、一国二制度のもと、経済的・社会的な分野については条約の締結主体となることができます。逆に言えば、中国が締結した協定については、香港も締結しない限り、利用することができません。現在、中国とASEANとの間で締結する自由貿易協定であるACFTAに、中国側からは香港加盟を希望していますが、これは同地域での法人税が安い為、香港を仲介貿易やストック・オペレーションを行う拠点として活用される可能性があるためです。中国にとってメリットがあるものの、協定交渉や締結は別個の主体として行う必要があります。

香港の締結するFTA、EPAとしては、現状では中国との間の経済貿易緊密化協定(CEPA)、ニュージーランド、EFTA、チリとの間のみとなります。香港は経済緊密化協定という名称で物品の関税率を下げたり、撤廃したりするだけにとどまらない、どちらかというとEPAに分類される協定を締結しています。

香港のFTA、CEPA締結国、交渉国

香港のFTA、EPA、通商協定の締結国
締結国、協定国、交渉国 状況、概要
香港-中国CEPA 2003年に調印以降、ほぼ毎年更新を繰り返し、2012年時点で第9次経済貿易緊密化協定補充(CEPA10)に調印している。
香港-ニュージーランド 2011年発効。FTA、経済緊密化協定(CEPA)。
香港-EFTA 2012年発効。アイスランド、リヒテンシュタイン、スイス、ノルウェーとの間のFTA、経済緊密化協定(CEPA)
香港-チリ FTA。2012年締結。発効調整中。

香港に輸入時にかかる関税および諸税

香港に輸入する際、あるいは香港から輸出する際のいずれについても関税はありません。
すべての品目について、関税ゼロで輸入することが出来ます。消費税や付加価値税などもありません。

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ロシアのFTA

ロシアは2012年8月に、156番目のWTO加盟国となりましたが、貿易の自由化については遅れており、ソ連崩壊後も政治的な確執もあり、西側との間での貿易協定は締結されていません。とはいえ、同国の市場参入を目的とし外資系企業の工場なども増加しており、貿易の機会は増加しています。

同国では2012年9月、自動車リサイクル税導入が決まり、外国で製造された車種の価格が5~7%上昇するとの予測が出ています。こうした事情に伴い、ロシアへの輸出で高い関税と国内諸税を支払うよりも、ロシア内に工場を作った方が得であるとの算段から、ロシア国内への進出を検討するメーカーもあります。いずれにせよ、現地調達でまかなえない部品や材料は輸入する必要があるため、関税の問題も無関係ではありません。

ロシアはCIS諸国との間に関税同盟を含む協定を締結していますが、CISそのものが形骸化しつつあり、ロシアとしては何らかの形で旧ソ連時代の「まとまり」を維持しようと様々な共同体、同盟を作っていますが、その勢力が及ぶ範囲は狭まってきているのが実情です。旧ソ連時代には連邦としてまとめていたものの、一旦独立した後はロシアと袂を分かつ国も出てきており、これらを止めることができないのが現状です。

CISは大別すると、新ロと反ロ(もしくは親欧)との分けることが出来、ウクライナのようにロシアとの間で緊張が高まるような関係を何度も経験しつつも、対話を重ねている国もありますが、同国もEUへの加盟を悲願としており、その前段階でのEUとの連合協定に期待を寄せています。一方でロシア側は、自陣営への関税同盟への参加を呼びかけるなど、旧ソ連の国々が西側に組み込まれないよう予防線をはっています。

2000年10月10日にロシアを盟主的な立場としてベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタンとの間で「ユーラシア経済圏の創設に関する協定」が締結されていますが、ウクライナのヤヌコビッチ大統領は2012年8月にこの関税同盟への加盟について前向きな姿勢を示すものの、いまだ実現しておらず、EU加盟のためにウクライナがこの同盟に加わることはないとする報道もあります。

CIS諸国構成
反ロシア親欧米派(欧州CIS) 親ロシア派
グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ(GUAM諸国) ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニア

ソ連が崩壊した後に、ゆるやかに各国が独立・自立していくための枠組みであったCIS(独立国家共同体)ですが、ロシアによっては共産圏の勢力維持という側面があり、求心力を失いつつも、西側と一線を引いてきました。現在のCISの加盟国は、ロシア、ベラルーシ、アルメニア、ウクライナ(CIS憲章に署名はしていないため、正式加盟はしていないことになっている)、モルドバ、アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンとなっています。トルクメニスタンは2005年CIS脱退し、準加盟国の位置づけになり、同じく当初加盟国であったグルジアは2008年にCIS脱退しています。

ロシアのつくる関税同盟は、同盟間では関税の撤廃や低減などの条項が盛り込まれていますが、同盟国の外に対して、共通の関税を設定することが出来るため、自由貿易協定や経済連携協定とは異なる性質を持つ協定です。同盟国間で協力して保護主義的な通商・貿易政策を取ることにも使われているため、貿易自由化を阻害するという声も聞かれます。ロシアの締結する関税同盟はこうした性質を如実に示すものです。

なお、下表とは別に、アメリカ、カナダ、トルコ、EUの4カ国から輸入する場合については、GSP税率が適用されます。GSPを採用している先進国は、たいていは非常に多くの開発途上国を対象としていますが、ロシアについては対象外としている国が多いため、GSPを利用した特恵貿易が可能なのは前述の4カ国に限られます。

ロシアのFTAの締結国、協定国、交渉国

ロシアのFTA、EPA、関税同盟の締結国、交渉国
締結国、交渉国 状況、協定内容
CEZ(Common Economic Zone) 2004年発効。ベラルーシ、カザフスタン、ロシア、ウクライナとの間のFTA
アルメニア-ロシア 1993年発効、FTA
グルジア-ロシア 1994年発効。FTA。但し、現在はグルジアに対して禁輸措置。グルジアはCISからも脱退。両国間で紛争。
キルギス-ロシア 1993年発効、FTA
アゼルバイジャン-ロシア 1993年発効、FTA。
ベラルーシ-ロシア 1993年発効、FTA
カザフスタン-ロシア 1993年発効、FTA
モルドバ-ロシア 1993年発効、FTA
セルビア-ロシア 2006年発効。旧ユーゴスラビアとの間で協定があったため、その後継国の一つであるセルビアとも締結。FTA。
タジキスタン-ロシア 1993年発効、FTA
トルクメニスタン-ロシア 1993年発効、FTA
ウズベキスタン-ロシア 1993年発効、FTA
ユーラシア経済共同体(EAEC) 1997年発効。関税同盟。ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン。CISそのものが形骸化したため、それに代わり得る組織として、ロシアが推進。ただ、事実上、これらの関税同盟は形骸化しているとされる。

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韓国のFTAとEPA

貿易依存度の高い韓国はFTA・EPA協定の締結を強力に進めており、米国・EU・ASEANなどの大きな経済圏をはじめ、多数の国と地域との間で戦略的な関係を築いています。チリやシンガポールなどと並び、FTA・EPA先進国の一つといえます。もっとも、巨大経済圏である米国やEUとの交渉では、韓国にとっては大きく譲歩せざるを得なかった部分が条項から見て取れます。自国にとって何を優先するのか、何を残し、何を守るのかという方針が比較的明確な交渉でもありました。

日中韓の三国間でのEPA、FTA交渉も開始され、またASEAN+6のRCEPという世界の貿易量の3割を占める巨大地域での交渉もまもなく始まろうとしています。すでにEUと米国との間で協定を結んでいる韓国にとって、さらなる貿易圏拡大と、長らくこう着状態にあった日本との交渉結果次第では、様々な物品の商流、物流が変わる可能性もあります。

日系カーメーカーは、韓国へ日本車を販売する際、米国やEU経由で輸出しています。米韓FTAやEU韓FTAを使えば、通常は8%もの関税がかけられる自動車が、半分以下になるためです。仮に一台500万円の自動車を5000台韓国に入れるとしたら、日本経由ならば関税額は20億にもなってしまいます。米韓FTAを使えばこれが4%の関税率になるため、単純に10億円も安くなることになります。

韓国のFTA締結国、交渉国の一覧

締結国、協定国 状況
韓国・チリFTA 2004年4月1日発効
韓国・シンガポールFTA 2006年3月2日発効
韓国・EFTA FTA 2006年9月1日発効
韓国・ASEAN FTA 物品貿易:2007年6月1日発効、サービス貿易:2009年5月1日発効、投資分野:2009年9月1日発効
韓国・インド CEPA 2010年1月1日発効
韓国・EU FTA 2011年7月1日暫定発効
韓国・ペルーFTA 2011年8月1日発効
韓国・米国FTA 2012年3月15日発効
韓国・トルコFTA(枠組み協定・物品貿易協定) 妥結。2012年8月1日正式署名。
韓国・コロンビアFTA 2012年6月25日、交渉妥結宣言。
韓国・カナダFTA 交渉中(2005年7月~)
韓国・メキシコFTA 交渉中。2006年2月開始・6月中断の後、2007年12月に再開。
韓国・GCC FTA交渉中(2008年7月~)
韓国・ニュージーランドFTA 交渉中(2009年6月~)
韓国・オーストラリアFTA 交渉中(2009年5月~)
韓国・トルコFTA(サービス・投資協定、その他の協定) 交渉中(2010年4月~)
韓国・ベトナムFTA 交渉開始(2012年8月6日)
韓国・インドネシア 共同研究を開始することで合意。2011年。
韓国-日本 2003年~
韓国-中国 2011年~
韓国-ロシア 共同研究中。2007年~
韓国-メルコスール 2009年、覚書著名(貿易と投資の増進のための共同協議体設立了解覚書(MOU) 署名)
韓国-イスラエル 共同研究終了
韓国-SACU(南アフリカ関税同盟) 共同研究することに合意。2008年。
韓国-マレーシア 2011年研究開始。

韓国への輸入時にかかる関税以外の諸税

VAT(付加価値税)として10%。
計算方式は”Duty paid value”を採用。

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インドネシアのFTAとEPA

インドネシアとの取引では、条件を満たせばASEANが他の国や地域と締結しているEPA・FTAを活用することが出来ます(但し、通常、発効は国別に行うため、インドネシアで発効済のものに限ります)。2012年度には、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN間の協定が同国でも発効となりました。

インドネシアの発効・交渉中の多国間協定は、ASEAN加盟国としてのものがほとんどです。締結後は、同国で発効後に適用可能となる点に注意が必要です。例えば、日本-ASEAN協定では、インドネシアについては未発効のため、この協定は使うことができず、発効済みである日本-インドネシアの二国間EPA協定を使う必要があります。

イスラム国家であることから、イスラム開発協力会議「D8」(バングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、トルコ) のメンバーでもあり、これらの国との間に特恵貿易協定(PTA)を結んでいます。

インドネシアのFTA締結国と交渉国の一覧

インドネシアのFTA締結国、協定国、交渉国 状況
インドネシア-日本 2008年7月に発効
インドネシア-パキスタン 2005年11月、包括的経済連携(「CEP」)に関する枠組み協定に署名。但し未発効。
イスラム開発協力会議(「D8」) 特恵貿易協定に署名。2006年5月、D8参加国(バングラデシュ、エジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、およびトルコ)
インドネシア-オーストラリア 2010年から交渉。
インドネシア-インド(包括的経済協力協定「CECA」) 2005年11月、CECAのための共同研究会を立ち上げることに合意。
インドネシア-チリ 研究中
インドネシア-EFTA 交渉中。EFTA(リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェー、スイス)とは2011年から交渉開始。
インドネシア-韓国 交渉中。2012年から交渉
インドネシア-米国 提案、研究中。1997年~

インドネシアへ輸入時にかかる諸税

輸入時にかかる税金
(1)輸入関税(BM)
(2)付加価値税(PPN、10%)、
(3)輸入に伴う前払法人所得税PPH22(2.5%)

付加価値税は価格+関税の合計に対してかけられます。関税評価はCIFをベースに計算。

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タイのFTAとEPA

タイは二国間協定のほかに、ASEANのメンバーとしても協定を結んでいます。条件を満たし、複数の協定が使える場合は、使う協定を輸入者(輸出者)で選ぶことが出来ます。

クーデターを期に、タイとの経済関係を見直す動きがあり、米国との交渉も中断しましたが、現在はEUとの交渉開始にも合意し、各国とのFTA交渉を進めています。

タイのFTAとEPAの締結国、交渉国

締結国、協定国 状況
タイーオーストラリア(TAFTA) 2005年1月発効
タイーインド 2004年からアーリーハーベスト措置により関税の引き下げを開始。ただし、タリフスケジュールについては現在も交渉継続中。2012年1月に第2修正議定書が締結。
タイ-日本 2007年発効
タイーペルー 2011年12月発効。
タイーニュージーランド 2005年発効。
タイ-EU 2013年、交渉開始予定。
タイ-EFTA 交渉中断中。クーデター後に中断し、そのままになっている。
タイ-米国 2004年6月から交渉開始。交渉中断中。米国がタイの暫定政権とは交渉しないとの方針を出し、その後、進展がないが、米国側のUSTRによると、知的財産権や関税について二国間の関係を模索中とのこと。
TPP 2012年11月、タイのインラック首相が交渉参加の方針を発表。現在までにTPPの交渉参加国は、米国、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、ペルー、ベトナム、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、それに最近になって加わったカナダとメキシコとなる。

タイへの輸入時にかかる関税、諸税

関税のほか、付加価値税7%(VAT)がほぼ全ての物品にかかります。

物品によっては、下記「特定産業に供する輸入品に対する減免税制度に関する財務省通達」により、「10%を超える税率が設定されている場合は、10%を適用する」というルールがあります。

Notification of the Ministry of Finance
Re: Reduction and Exempion of Customs Duty
By Section 12 of the Customs Tariff Decree B.E. 2530
(Latest Updated by NMF No.32)
Thailand’s Customs Tariff pp.399-400 Yellow Handbook

このように、現地側では関税法以外の通達などによって税率を調整することもあるため、関税の事前教示制度があるならそれを使うことで、また現地のフォーワーダーとコンタクトする、現地側によく事情を聞くなども有用です。可能なら、少量を一度送ってみて、どのような関税になるのか確かめられればよいのですが、こうした場合でも、毎回同じ関税かどうかは(毎回同じHSコードが適用されるか)は税関次第という面があります。

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