日本とフィリピンの間で締結された日フィリピン経済連携協定は、日本が締結するEPAとしては9番目のものとなります。利用件数は毎月500前後となり、他の協定に比べるとあまり利用件数の多いほうではありませんが、多くの工業製品については、適用することで関税の減免が可能となっています。
フィリピンでは関税の設定や変更に関する権限を大統領が持つため、関税率に何らかの変更・調整などがあり、正式に関税率が変わる場合、大統領令(EXECUTIVE ORDER)という形で、発令されます。大統領令は略してEOと表記されるため、EO 852など発令時の番号とともに記載されます。輸出入の割当も大統領権限となるため、関税について調べる際はフィリピンの関税委員会(Tariff Commission)のウェブサイトに記載されている最新のEOとあわせて確認する必要があります。他、税関行政手続命令(Customs Administrative Order:CAO)の形で、各種関税や通関に関わる通達が発せられることがあります。通関上の法体系としては、フィリピン関税法(The Tariff and Customs Code of the Philippines:TCCP)が体系化されています。
関税を課す際の物品の番号体系でもあるHSコードは、ASEAN共通のHSコードとして設定されているAHTNコードを採用しています。ASEANの他の国では独自のHSコードとAHTNコードが混在している国もあるため、この辺は加盟国の中でも進んでいる国といえます。
フィリピンは貿易協定についてはASEANの加盟国として交渉していることが多く、単独での経済連携協定は珍しい部類となります。
フィリピンにとって最大の輸出国は日本となりますが、日本側では工業製品の多くについて関税を撤廃しています。フィリピンにとっての最大の輸入国は中国、米国、日本と続き、フィリピン側での基本関税率(MFN税率)は多くの品目で無税化していないため、貿易協定を用いて、減免を行うメリットは大きいといえます。
対象国
日本、フィリピン
使用されるHSコードのバージョン
HS2002
発効日
2008年12月11日
関税率が変わる日付
毎年4月1日。ただし、関税低減スケジュールによっては1月1日に変わるものもあります。発効から時間が経過しているため、協定を用いることで現在では多くの品目で関税ゼロとなっています。
関税の計算方法
フィリピン側の関税率
CIF価格に関税率をかける従価税方式と、従量税方式となります。
日本側の関税率
CIF価格に関税率をかける従価税方式が一般的ですが、品目によって従量税、スライド関税、混合税等もあります。CIF価格に関税を上乗せした金額に対し、消費税が加算されます。関税率が0だとしても、輸入時のCIF価格には必ず消費税が上乗せされます。
原産地証明書の発給機関
- 日本:日本商工会議所
- フィリピン:フィリピン関税局(BOC)
原産地規則
原産地規則については、品目のHSコードごとに「品目別規則(Product Specific Rules)」の欄に記載されています。
付加価値基準40%以上、関税分類番号変更基準(号変更【6桁】、項変更【4桁】)などがよく見られる原産地規則です。原産地規則はいずれか1つを満たせばよいものが大半であるため、品目によりけりですが、適用はしやすい部類の協定です。後述しますが、関税の低減スケジュールのパターンにかなりバリエーションがあるため、実際の関税率確認の際は留意が必要です。
救済規定などの特別規定の有無
累積
使用可能。締結国の一方の原産品はもう一方の国でも原産品になります。
僅少の非原産材料(デミニマス規定)
使用可能です。デミニマスの基準はHSコードの大分類によって基準が異なり、28類から49類、64類から97類については価格の10%、50類から63類については重量の7%までとなります。
日フィリピン協定による税率
タリフスケジュール|譲許表|関税低減スケジュール
譲許表記載の記号 | 意味 |
---|---|
A | 発効日に関税が即時撤廃されている品目 |
B3 | 関税撤廃までに4回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B4 | 関税撤廃までに5回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B4* | 2010年1月1日に関税撤廃された品目 |
B4** | 現在は関税撤廃されている品目。2003年12月31日時点のMFN税率をもとに5年後に関税をゼロにするというもの。 |
B5 | 関税撤廃までに6回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B5* | 現在は関税撤廃されている。 |
B5** | 現在は関税撤廃されている。 |
B7 | 関税撤廃までに8回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目 |
B10 | 関税撤廃までに11回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目 |
B10* | MNF税率を適用し、関税撤廃までに10回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。低減の日付は毎年1月1日。 |
B10** | MNF税率を適用し、関税撤廃までに6回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。低減の日付は毎年1月1日。 |
B15 | 関税撤廃までに16回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目 |
P | 注釈で個別に低減ルールを定めている品目 |
Q | 注釈で個別に低減ルールを定めている品目 |
S | 注釈で個別に低減ルールを定めている品目(フィリピン側のみ) |
R | 注釈で個別に低減ルールを定めている品目 |
X | この協定による交渉で除外されており、関税の撤廃や減免の対象外となっている品目 |
日本側の関税低減スケジュール(日本輸入時の関税)
フィリピン側の関税低減スケジュール(フィリピン輸入時の関税)
日フィリピン経済連携協定に関する情報ソース、関連リンク
- 日フィリピン協定の適用マニュアル(JETRO)
- 日フィリピン経済連携協定(協定全文、英語、日本外務省)
- 日フィリピン経済連携協定(協定全文、日本語、日本外務省)
- フィリピンの関税制度(JETRO)
- フィリピン関税委員会(REPUBLIC OF THE PHILIPPINES TARIFF COMMISSION)
- フィリピンの関税率データベース(フィリピン関税委員会)
- 大統領令(EXECUTIVE ORDER)の一覧(フィリピン関税委員会)
- 特定原産地証明書の発給に関するデータ(経済産業省)
- 国別情報:日フィリピン経済連携協定(日本商工会議所)