付加価値基準(VAルール)

主要な原産地規則のうちの一つで、ある物品がその国の原産品であるということを認定するためには、「その国での加工によって一定以上の付加価値を加える必要がある」というものです。この基準は、原産地規則のなかでもほとんどあらゆる貿易協定に採用されている非常にポピュラーなルールです。

英語版の協定文では、Value Addedと表記されることが多いですが、他にもRVC(Regional Value Content):(日本・メキシコ経済連携協定や日本ASEAN経済連携協定)、LVC(Local Value Content):(日本・ベトナム経済連携協定)、VNM(Value of Non-originating Materials):(日本・スイス経済連携協定)などの呼び名があります。上記のようにこの付加価値基準の表示方法は、協定によって異なるのですが、留意すべきは、原産資格が何十%以上なのか、非原産比率が何十%以下なのかという点です。どちらの基準となっているのかは協定によります。

これを間違えると、正しい判定ができなくなるため、日本以外の国同士の協定を活用する場合は、特に協定条文をよく確認し、この付加価値基準の定義と表記を確認しておくべきです。

EPA、FTA適用のための原産資格算出の3つの計算方式

この付加価値基準における「原産資格の割合」の計算方法としては、主に以下の3つがあります。日本が締結しているほとんどの協定については、いずれの計算方式でも利用可能となっていますので、原産地規則を満たせるもので製品によって使いやすいものを選ぶことができます。

なお、このVAルール適用のために使った計算書、非原産材料を輸入した場合はその際のインボイス、原材料や部品購入時の見積書などは場合によっては特定原産地証明書の発給機関である日本商工会議所への提出が必要となるケースもあります。このため、こうした書類は取引が終わってもすぐに破棄するのではなく、照会のあった場合に備えてしばらく保管しておく必要があります。

控除方式

価格から非原産材料の価格を引く計算方法です。これによって価格に対する原産材料の割合がわかりますので、協定で定められた原産品割合を超えていれば、原産資格を得ることが出来ます。

日本が締結するEPA協定では、この「価格」はFOB価格を使います。日本-スイス経済連携協定だけはEx-Works(工場渡し価格:港、空港までの輸送コストを含まず、工場から出荷する時の価格、通常の国内価格)を価格としています。

なお、非原産材料の価格は、一般的には協定外の第三国からの輸入を想定している為、CIF価格を使います。非原産材料を国内業者から仕入れている場合やCIF価格がよくわからない場合は、実際の購入価格で計算します。

原産材料、非原産材料ともに部品点数が非常に多く、個別に実際金額を追うことが出来ない場合は、自社内の会計基準による標準原価や予定原価で計算することも認められています。(※この場合は、実際の金額との差異を別途チェックしておくことが求められます。)

{(製品価格【FOB】- 非原産材料【CIF】)/ 製品価格 } x 100 = 原産品の割合

ほとんどの協定ではVA40%の基準が採用されていますが、これは付加価値基準で40%、つまり原産資格割合が40%以上ということです。原産材料の割合が40%以上ということではありませんので注意が必要です。非原産の材料を多く使っていても、それらを国内で加工等することで、原産資格を得ることも出来ます。

積み上げ方式

使った原産材料、生産コストを足していく方法で、各協定で定められている価格に対する原産割合を超えるまで足し続けていきます。例えば、VA30%基準が適用されているのであれば、その物品のFOB価格の30%を超えるまで原産材料と生産コストを加算していきます。

{原産材料の合計+生産コストの合計(非原産材料の材料費以外の加工コストも含む)+輸送コスト+利益}/ 製品価格(FOB)

非材料費から割り出す方式

輸出価格に含まれる非材料費(生産や加工にかかったコスト+利益+輸送費など)が一定以上の割合になっていることを示す計算方式です。計算としては、価格から、原材料(原産品、非原産品の双方)の合計を差し引くことで、非材料費の合計がわかります。

{製品価格 - 材料費の合計(原産、非原産ともに)}/ 製品価格

材料以外の費用の合計がその国における「付加価値」とみなすことが出来るため、その価格から原産資格を証明する方式です。

この計算で原産資格に満たない場合は、原産材料の価格を足りない分だけ加算することも可能です。この場合は、原産材料の納品書・請求書などの金額が記載されたものが必要となります。

ただし、この基準では、生産を自国でまったく行っていない場合でも、満たしてしまうことがあります。この場合は原産品とはならない点に留意が必要です。各協定では、国内で行っても原産性を付与することにはならない作業を規定しています。たとえば、分解してあるものを組み立てるだけの作業、個別にパッキングされているものをセットにする作業、梱包作業、仕分けや改装、輸送・保管上の理由から物品の状態を保つ為に必要な作業(乾燥、冷凍、塩水漬け)などです。

価格変動などによる原産資格喪失のリスク

なお、上記3つのいずれの計算方法でも、付加価値基準(VAルール)を使う場合は、基準をぎりぎりでクリアしている場合、為替変動や原材料の価格改訂などによって唐突に原産割合が変わってしまうことがあります。非材料費アプローチを使う場合、輸送費の価格変動なども影響を受けます。

価格変動の激しい部材を使っており、原産割合が頻繁に変わってしまう場合、余裕を見た基準を設けて、多少の変動では原産資格を失わないようなルール設定にしておくのも一つの方法です。

実際に、価格変動によって原産品資格が無くなってしまった場合は、別途日本商工会議所に届け出る必要があります(原産品判定の取消し依頼)。

なお、「原産」としてカウントする部品や材料については、その原産性を示す証拠書類が必要になりますので、こうしたものがそろいにくい場合、材料以外の費用(非材料費)のみで、付加価値基準を証明する方法もよく使われます。利益を多くとっている場合、設計や工賃などの明細が出ていて、材料費よりも比率が高そうな場合に効果的です。