日本・メキシコ経済連携協定は、日本が2番目に締結したEPA協定となります。日本が最初に締結したシンガポールとの協定では、同国がほとんどの関税を撤廃しており、日本が交渉する場合のネックとなる農産物の関税低減が交渉内容に入っていなかったことから、双方の締結国で互いに守るべき品目と輸出したい品目とを巡って、本格的な交渉がなされた最初の協定ともいえます。
メキシコ側は日本が守ろうとしている豚肉、オレンジジュース、鶏肉、オレンジ、牛肉についての関税低減を強く求めており、日本側は自動車、鉄鋼等の関税低減を求め、農業と鉱工業とで両者の利害は一致しませんでした。
結果として、メキシコ側は前述の自動車関連産業に大きく影響する鉱工業品の関税を下げていくことでまとまり、日本側も交渉時の重要5品目となっていた農産物については関税割当で対応することになりました。これは一定の数量までは低関税率で輸入を可能としつつも、分量が一定を超えると高関税をかけて国内への流入を制限する方法ですが、割当数量の調整により、弾力的に運用可能な方法でもあります。
こうした事情から、関税低減スケジュール表である譲許表に、関税割当指定されている品目が本格的に組み込まれている最初の経済連携協定となっています。
この日メキシコ協定は2005年に発効していますが、改定議定書という形で、協定内容の見直しも行われており、最新の内容は平成24年4月1日(2012年)に発効されたものとなります。ここでは、「市場アクセスの改善」と「認定輸出者制度の導入」の2点について改定が行われました。市場アクセスの面では、メキシコ側にて自動車部品とインクジェットプリンタ用紙の関税が撤廃され、日本側では、交渉時の重要5品目である牛肉、豚肉、鶏肉、オレンジ、オレンジジュース等について関税割当数量が拡大され、枠内税率の削減が行われました。
認定輸出者制度の導入とは、原産地証明書の発行を輸出者自らが行うことができる制度です。NAFTAなどでは一般的ですが、日本のEPAの適用に用いる原産地証明書は、今まで日本商工会議所に判定申請を行い、通過したものについてのみ発給申請を行う方式で、発給機関はあくまで「日本商工会議所」でした。この認定輸出者制度の場合、認定を受けた企業・個人が自己証明する方式です。残念ながら、日本では利用実績が少ないですが、将来的に締結される協定のなかに自己証明方式のみのものが出てくれば普及していくかもしれません。
日メキシコ協定の利用件数のほうですが、日系企業がひしめくASEAN圏に比べるとたしかに少ないですが、年々、少しずつではありますが増加しつつあります。経済産業省のデータでは、月間の利用件数(原産地証明書発給件数)は、直近のもので毎月600件前後~700件前後となっています。
メキシコはNAFTA(米国、カナダ、メキシコの自由貿易協定)の他、EUや中南米諸国など巨大な経済圏、貿易圏を構成する各国との間に自由貿易協定や特恵貿易協定等の地域間協定を締結しています。シンガポールやチリと並び、FTA大国の一つでもあります。
ただ、米国とメキシコの双方に生産拠点や製造会社をもつ会社の場合、マキラドーラの仕組みを用いた製造(日本と中国でいうところの来料加工、委託加工のようなもの)を使う傾向にあるため、一旦、米国に部材を入れて、そこからメキシコへ供給する、というルートになると日-メキシコ間の貿易協定は使う機会がなくなってしまいます。
日本はEUと米国との間で貿易協定を交渉中ではありますが、現時点では締結していないため貿易においては関税減免の恩恵を受けることはできません。一方で、日本からメキシコの生産拠点へ部品や材料などの生産資材を送り、完成品としてメキシコから米国やEUへ輸出されるというスキームを用いることで、関税をほぼゼロにすることができます。マキラドーラではなく、こうした手法で北米、南米、欧州への市場アクセスを確保している企業・業種もあります。
この協定の締結以前には、在メキシコの日系企業が米国やEUの企業と競争していく上で著しく不利な状況に置かれていましたが、協定発効後は、メキシコに生産拠点を置くことで、北米、南米、欧州へのアクセスが向上するとともに、政府調達への入札等の面でも同じ土俵に上がることができたといえます。
適用上の難点があるとすれば日メキシコ協定では、日インド協定と同様に、原産地規則を二つ(VA基準、CTC基準)満たしていることを求める品目があり、これらは実務上、品目によってはかなりの手間となります。具体的には、機械類の大部分を擁する84類、電気機器類の85類など日本からの輸出の多い工業製品が該当します。また、付加価値基準と関税分類番号変更基準のどちらでも選べる、というタイプの品目が少ないため、日本が締結する協定のなかでは原産地規則が厳しい部類になります。
日メキシコ協定の対象国
日本、メキシコ
使用されるHSコードのバージョン
HS2002
発効日
2005年4月1日
関税率が変わる日付
日本側(日本輸入時)、メキシコ側(メキシコ輸入時)ともに毎年4月1日に低減。関税の段階的引き下げ品目として設定されているもので、まだ関税がゼロになっていないものに限ります。
工業製品の多くは事実上、ほとんどが0%となります。メキシコのMFN税率も先進諸国に近いレベルでの低減を行っていますが、輸入時に掛けられる関税以外の諸税にVAT(付加価値税)16%があります。
関税の計算方法
メキシコ側の関税率
日本と同様に、CIF価格に関税率をかける従価税方式と、品目によっては従量税方式が一般的です。
VAT(付加価値税)が16%あるため、コスト計算についてはこの価格についても念頭に置く必要があります。メキシコのVATは輸入付加価値税(IVA)と呼ばれます。
(CIF価格+関税+税関手数料)x VAT(16%)となります。
税関手数料はCIF価格×0.8%で計算されます。
なお、冒頭でも述べたとおり、メキシコは世界の中でもFTA大国、貿易協定を多数の国・地域との間に結んでいます。
代表的なFTAやEPAなどの枠組みのほか、中南米諸国との間で締結しているALADI(ラテンアメリカ統合連合)としても、特恵税率が適用されます。FTAやEPAを直接結んでいない南米諸国に対しても、このスキームを用いた関税低減が可能です。ALADIの枠組みで締結されている協定は複数存在するため、個別に確認が必要になります。
日本側の関税率
CIF価格に関税率をかける従価税方式が一般的ですが、品目によって従量税、スライド関税、混合税等もあります。CIF価格に関税を上乗せした金額に対し、消費税が加算されます。関税率が0だとしても、輸入時のCIF価格には必ず消費税が上乗せされます。
原産地証明書の発給機関
- 日本:日本商工会議所
- メキシコ:経済省(SE、Secretaria de Economia)
なお、1000USDを超えない(日本側は20万円)品物については原産地証明書の提示が不要となります。
原産地規則
原産地規則については、品目のHSコードごとに「品目別規則(Product Specific Rules)」の欄に記載されています。
機械類や電気機器類などの工業製品、工業部品などは付加価値基準50%以上、関税分類番号変更基準(項変更【4桁】)の双方を求められるケースがあります。他のASEAN諸国との協定に比べると原産地規則がかなり厳しくなっていますので、留意が必要です。また、VA基準とCTC基準の選択式となっている品目は稀で、一つだけの原産地規則ですむものについても、品目別規則で指定されているケースが目立ちます。
なお、VA基準に用いる材料の価格は取引価格となります。
日メキシコEPA協定における品目別規則
救済規定などの特別規定の有無
累積
使用可能。締結国の一方の原産品はもう一方の国でも原産品になります。
僅少の非原産材料(デミニマス規定)
使用可能です。デミニマスの基準はHSコードの大分類によって基準が異なり、28類から49類、64類から97類については価格の10%、
50類から63類までの繊維系産品については重量の7%までとなります。
日メキシコ協定による税率
タリフスケジュール|譲許表|関税低減スケジュール
農産品の多くは関税割当が適用されています。メキシコ側については、譲許表のもっとも右側であるColumn 5の数字がそれぞれ注釈となっており、どのような関税割当になっているかの詳細を示しています。また、このColumn 5の欄には個別に注釈が記載されていますので、ここに数字の書かれている品目の税率は各注釈に従って決定されます。
譲許表記載の記号 | 意味 |
---|---|
A | 発効日に関税が即時撤廃されている品目 |
B1 | 2006年に関税撤廃。 |
B2 | 2010年に関税撤廃。 |
B4 | 関税撤廃までに4回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B5 | 関税撤廃までに5回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B6 | 関税撤廃までに6回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B7 | 関税撤廃までに7回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
B8 | 関税撤廃までに8回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。現在は撤廃されている。 |
C | 関税撤廃までに10回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。 |
Ca | 関税撤廃までに11回に分けて毎年均等に関税率を低減していく品目。 |
D | この協定の効力発生の日から2004年1月1日において当該品目に適用されている実行最恵国税率を適用し、6年目の初日から行われる基準税率から無税までの6回の毎年均等な引下げにより、撤廃される品目 |
E | 11年目の初日に関税撤廃される品目 |
P | 発効の初日に、Column 5の注釈に記載された税率まで関税率を下げる品目 |
Q | 注釈で個別に低減ルールを定めている品目 |
X | この協定による交渉で除外されており、関税の撤廃や減免の対象外となっている品目 |
日本側の関税低減スケジュール(日本輸入時の関税)
メキシコ側の関税低減スケジュール(フィリピン輸入時の関税)
日メキシコ経済連携協定に関する情報ソース、関連リンク
- 日メキシコ協定(地域別情報、日本商工会議所)
- 日本メキシコ経済連携協定活用マニュアル(JETRO)
- 日・メキシコ経済連携協定(更新情報、日本外務省)
- メキシコの関税制度(JETRO)
- トレードバランス、メキシコと各国との物品ごとの輸出入量(メキシコ経済省)
- メキシコが締結・交渉している地域別の協定(メキシコ経済省)
- SIAVI(SISTEMA DE INFORMACION ARANCELARIA VIA INTERNET)メキシコ経済省によるオンライン検索可能な関税、貿易に関するデータベース
- Acuerdo de Complementacion Economica No. 53 |メキシコ-ブラジル ECA no.53
- 南米諸国の協定締結状況の一覧(SICE)
- 特定原産地証明書の発給に関するデータ(経済産業省)