海外における生産拠点、製造拠点などの工場で使う原材料や部品、消耗品、生産材全般、設備などすべてを現地調達できるのが理想的ですが、ほとんどの生産工場では製造に用いるかなりのものを輸入に依存しているかと思います。
海外の生産拠点の設立は、人件費の安さをはじめとするランニングコストの安さを見込んだり、顧客の近くだからという理由であったり、現地政府の優遇税制を見込んだりといった「コスト」を中心になされるため、そうした土地は往々にしてものづくりにおけるサプライチェーンが出来上がっていなかったり、産業構造が日本とは大きく異なることが一般的です。スタッフも限られ、いきなり有利購買やグローバル調達を積極的に進める、というわけにもいかず、結局日本や近隣の設立済みの他の工場から調達したり、仕入先が海外拠点を持つメーカーであれば、近場から調達するといった形になります。
また工業製品などでは特殊な製造設備を本社から持っていかねばならないことも珍しくないため、輸入コストというものが最初からついてまわります。
可能な限り、現地調達化を推進することが重要なのは当然ですが、当面は日々かかっている輸入コストをいかにして削減するかという点が原価低減にはすぐに効いてきますので、検討する価値の高い項目のひとつです。
関税などの諸税を含めた輸入コストというのは「会社の利益が出ようと出まいとかかっているコスト」という点がポイントです。法人税であれば、利益に応じた課税となるのに対し、輸入における関税などの諸税は輸入金額に応じたものになるため、会社が苦しいときほどその影響が直接出てきます。
まず、輸入コストの構成というのはおおむね以下のようになっています。
- 1.輸送コスト
- 2.輸入する製品の価格
- 3.上記に関税を乗せた金額
- 4.3に諸税を乗せた金額(VAT、物品税等)
- 5.輸入業務に対応するスタッフの人件費
したがって、削るコストの候補としては、
- 輸送費用、輸送にかかわる費用全般
- 価格そのもの(製品単価)
- 関税や諸税など輸入時にかけられる間接税
- 社内の輸入業務工数の削減
等が考えられます。
輸入コストのそれぞれの詳細と削減方法を以下に見ていきます。
1.輸送コストの削減
輸送コストというのは、出荷元となる工場での梱包費用、港や空港までの輸送費、輸出通関料、空港や港等でかかる諸経費、手数料、セキュリティ費用、航空便ならば燃料サーチャージ(フューエルサーチャージ)、仕向け地までのキロ当たりの輸送単価もしくはコンテナあたりの輸送単価(20ftと40ftでまた異なる)、輸入側での通関費用、空港・港等の利用にかかる費用・手数料、内陸輸送費用などから構成されています。
物量がそこそこあるような場合、輸送量と契約期間を明示の上、複数のフォーワーダーから相見積もりをとる形式で決められることが多く、このときリードタイムやメリット・デメリット等も確認することになります。
フォーワーダーによっては、使う船会社や航空会社によってどのような価格差やサービスの違いがあるか比較のために明示してくれることもありますので、とにかく価格だけを重視するのか、輸送時間となるリードタイムとのバランスを見るのかといった優先事項を考えながら比較していくことになります。
状況によっては船会社を変えるだけで毎回の輸送コストが少しずつ下がった結果、年間ではかなりの削減効果となる、というケースもあります。
また、見積もり書に金額が明示されていない項目については、注意が必要です。そのときどきの時価、実費など見積もり時点では不明な場合、項目だけしか記載されていませんが、何かが安い分、別の項目で帳尻をあわせているケースもあるため、見積書の査定や精査はよく行ったほうがよいでしょう。国際物流における費用対効果というのは、単純に、重量あたりの輸送単価だけの比較ではないという点に留意が必要です。
2.輸入する製品の価格
輸入する製品の価格、つまり買値ですが、これはグループ会社との取引などで不当に安い価格で購入すると移転価格税制の問題にぶつかるため、適正な価格で取引する必要があります。もちろん、資本関係のない会社との取引であれば、取引条件等を交渉しつつ、より安い価格で購入できるよう交渉することも重要です。ただしこれも現実的にはなかなか難しいでしょう。
移転価格とは、資本関係のある会社同士が、たとえば、法人税の高い国で税金を支払いたくないために、さまざまな物品を安く価格で海外へ送り、その国では赤字となりますが、現地での製造コストを大幅に下げてそちらで利益を出すというようなことを禁じるものです。
グローバルに展開する企業では必ずこの問題に直面しますが、合法的な形で、税金の高い国での利益を圧縮する方法は現実的に行われています。
また、関税が課せられる品目の場合、関税額の算出は「関税評価額(CIF価格) x 関税率」で計算される国が多いため、関税のコストダウンのためには、製品の価格自体を下げるか、関税率を下げるか、その両方かという選択肢になります。
関税評価額が無制限に下げられるような状態になっていると、たとえば関税率10%の品目を1000万円輸入している場合、関税額が単純に100万円かかるわけですが、この1000万円の価格(製品価格+輸送費用+保険費用)を1万円だと偽った場合、関税額はわずか1000円になります。このため、各国で関税評価額を不当に安くすることは厳しく禁じられています。
合法的に下げる手法として、ロイヤリティや技術使用料、パテント使用料などの名目で支払っているものがあれば、それらを相手への売価から外すというような検討がなされることもありますが、両国の税制と関税評価額の算定基準についての専門知識が必要となります。
グループ間の取引であれば、原価低減などを通じて単価を下げる努力というのは継続的に行われているものと思います。こうした小さなコスト低減により、売価が下がれば、輸入コストの低減にもつながっていきます。
3.上記に関税を乗せた金額|関税の削減方法
「関税」とは、物品ごとに定められた関税率をかけることによって算出される品目が一般的です(従価税方式)。
前述の価格を不当に安くすることができない以上、関税率をゼロにすることでこの部分のコストダウンは可能です。
関税を下げていく活動には以下のようなものがあります。
HSコードの精査
輸入額(輸出額)が大きい場合は製品の「分類」を検討することもあります。貿易における物品にはHSコードと呼ばれる番号が振られますが、関税率はこのHSコードごとに決められます。HSコードは分類番号の体系であるため、国によりまちまちですが、9000~10000前後の数を持ちます。あらゆる物品がこの1万程度の番号のいずれかに分類されるため、複数のHSコードに該当するようなケースや、製品の特長や性質・仕様の誤解などから本来採番されるべき番号とは異なるHSコードに振られていることも珍しくありません。
まずは正しいHSコードが何番になるのか、輸入側は輸出側と連携して現地にて輸入通関を行う業者に確認を行う必要があります。
先進国の多くは、前もって現地税関に書面でHSコードを照会しておく事前教示制度と呼ばれるものもあります。一旦正式な事前教示をもらっておくと、実際の通関ではその番号が尊重されることになりますので、輸入時のHSコードで係争が発生するような場合は前もって確認しておくこともあります。ただし、一方で開発途上国の多くでは事前教示制度がなかったり、形骸化しており実際の効力がなかったりすることも多いため、現地税関とのやり取りの経験が豊富な通関業者を通じてどの番号が妥当か事前検討・確認が必要です。いったん、通関実績がついてしまうと、あとからHSコードだけを変更できない国もあるため、最初通関時のHSコードには特に神経を使うべきです。
本来つけられるべきHSコードとはまったく異なるHSコードがつけられ、輸入通関されていたため、関税を余計に多く支払っていた、という話は諸外国、特に開発途上国を中心に実際によくあります。
貿易協定の利用
貿易協定とは、このサイトで取り上げている自由貿易協定や経済連携協定、特恵貿易協定など二国間や多国間の条約を結んだ国同士の貿易で、協定に定めのある物品についてのみ関税の減免を行うことができるものです。
「貿易の自由化」すなわち関税をどのように下げていくのかについては、以前はWTO(世界貿易機関)にて世界の加盟国が合議で関税の低減について話し合っていましたが、この場で決めた関税低減の話は加盟国間すべての貿易に影響を及ぼすため、各国の利害の衝突が目立ち、関税の低減が進まない膠着状態に陥りました。そうしたなか、貿易協定が利害の一致する国同士で締結されるようになり、現在ではこの方法が関税面でのもっとも効果の高い貿易自由化の手段の一つとなっています。
貿易協定の利用にはほとんどの場合、輸出品に専用の原産地証明書をつけ、輸入申告時にそれらを提示することで所定の関税減免の恩恵を得ることができます。貿易協定が発効されているからといっても、専用の原産地証明書をつけ、所定の手続きを行わないと通常の税率が適用されることになります。
これは貿易協定を結んでいない国の物品に、安い税率を適用させない、いわゆる漁夫の利を防ぐための方法です。原産地証明書をつけられる品目は、貿易協定を結んでいる国の「原産品」に限定され、その原産地の基準も、協定ごとに品目(HSコード)によって決められています。
貿易協定の中でもFTA(自由貿易協定)やCEPA(包括的経済連携協定)といった協定は関税の減免効果が大きく、かなりの品目で関税率を撤廃するため、金額の大きい物品の輸入や量産品の輸入ではかなり大きな輸入コスト削減となります。
ただし、これには輸出側の協力が必要となります。
輸送単位の変更
HSコードの精査の重要性については前述したとおりですが、品目によっては輸出国で仕上げない、完成品にしない状態で輸出したほうが関税が安くなるものがあります。
あるいは、逆に単品で送るよりも一つの「設備」として送ったほうが関税の減免効果が大きく見込めるものもあります。正しいHSコードがあらかじめ分かっている場合、関税率や貿易協定の利用の可能性などがある程度判断できますので、この輸送単位の変更や輸出する際の製品の状態を変えるというようなことも検討項目になります。
どのような「単位」あるいは「構成要素」として輸出するのかについては、完成品として送った場合と部品として送った場合の関税比較を行うことが肝要です。この際、それぞれについて貿易協定が使えるかどうか、またその税率がいくらなのかも調べておくと検討が捗ります。
これは関税を下げるためだけでなく、現地で特殊なライセンスが必要な設備を送る場合などにも検討されることがある手段です。
優遇税制制度を利用する
国によっては外資誘致のため、一定期間の法人税の免除のほか、一定の要件を満たす企業において輸入品の関税を減免する制度を持つことがあります。貿易協定と比べてこちらのほうが減免効果が高い場合は、使用を検討すべき項目の一つです。
自国で輸出用の製品を製造するために輸入している原材料や部品について一定の関税免除などを設けている国もあります。いずれも自動的に適用される、というものはなく、申請手続きが必要となります。何もしなければ関税は通常、MFN税率が適用されることになります。
4.3に諸税を乗せた金額(VAT、物品税等)
VATはいわゆる付加価値税のことですが、これらの税金は関税を乗せた価格に対してかけられるため、関税が下がれば相対的にこれらも下がることがあります。基本的に、国内流通品に対してVATがかけられているため、輸入品についても輸入時に同様にかける国が多く、なかには国内との物価調整のため、さらに諸税にて調整を行う国もあります。これら諸税の中には特定の条件を満たすことで「還付」(あとから返してもらう)することができるものもあります。
関税がかからない品目であっても、VATだけはかけられることが多いため、この部分をコスト計算から外すわけにはいきません。
修理や改造などの名目で、いったん国外に出したものを再度輸入する、「再輸入」などの場合、一定条件を満たすことでVATが免除となる制度を設けている国もありますので、これも活用していくとよいでしょう。
5.輸入業務に対応するスタッフの人件費
メーカーの製造会社などの生産拠点等では購買業務を行うスタッフが輸入業務を兼務していることが多く、輸出業務については営業部門が同様に兼務している例が多いといえます。
貿易は資格云々よりも、経験をつんでいくうちに学んでいく分野であるため、現地の貿易事情を学び、フォーワーダー・税関とやり取りできる現地スタッフの育成が重要です。
専任の貿易担当を置いているならば、より高度な関税減免などを業務に組み込む等することも可能ですが、兼務の場合は、輸出先の助けも借りつつ、この部分の人件費を削るというよりは、上記で述べてきた輸入コストの削減に取り組んでいくほうが効果が高いと思われます。
現地の通関業者と協力して行っていくことになると思いますが、現地の通関事情や貿易に精通した社内人材というのはとても貴重です。海外の生産拠点の多くでは、優秀な現地スタッフがいなくなってしまい、こうした貿易ノウハウが失われるということもよくあります。
輸入業務に関する工数の削減も重要課題ではありますが、業務改善等により残業時間の削減だけでなく、輸入コスト削減検討のために使う工数は残しておきたいところです。