ACFTAとは、中国とASEAN10カ国(タイ、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の間で締結されている多国間の自由貿易協定で、この協定で使われる専用の原産地証明書の通称名をとってform e(フォームE)と呼ばれたり、協定名の略称であるACFTAの名称でも呼ばれます(ASEAN-China Free Trade Areaの頭文字を取ったもの)。
カバーする経済圏・貿易圏が中国とASEAN全域という規模の大きいものとなっており、多くの企業が生産拠点を構える中国と東南アジアの間での物品のやり取りにも頻繁に活用される協定となります。
協定の構成は貿易の柱となっている「物品貿易」と「サービス貿易」「投資」の三本立てになっており、FTAの基本的な内容を網羅的に備えている協定です。経済連携協力ほどの踏み込んだ内容にはなっていませんが、物品貿易・サービス貿易で両地域に経済的恩恵をもたらしています。また、この協定は当初から枠組み協定(Framework Agreement)という形で合意できた部分から先行して発効し、関税を低減していく形をとっています。このためのアーリーハーベストプログラム(早期実施分のプログラム)も協定内に盛り込まれています。
ACFTA(中国-ASEAN)を実際に利用する場合の多くは、物を中国-ASEAN間で取引する際に、関税を減免させるための手続きになるかと思います。金額が大きくなる貿易品の場合、輸送費よりも関税額が高くなることも珍しくないため、コスト低減を喫緊の課題としている企業にとって利用価値が高い協定といえます。製造コストの安い地域へと生産拠点を移したものの、原価が思った以上に下がらないというような場合は、人件費ばかりが着目されがちですが、現地へ送っている各種部品・材料の関税コストもしばしば問題となる項目です。物流費用の影に隠れて見えなくなりがちなコストですが、関税を課せられる品目は業績に関係なく輸入のたびに確実に費用がかかるため、売上が苦しいときほど特に負担になってくる費用でもあります。中国、ASEANは日系企業にとっても生産拠点が集約されているエリアでもあるため、発効当初から注目度の非常に高い協定です。
ACFTAにおけるノーマルトラックとセンシティブトラック
多国間の協定であるため、ASEANの加盟国それぞれが中国に対して各物品の関税の低減スケジュールを取り決めています。品目や国にもよりますが、関税低減のレベルは大きく、2015年までにはノーマルトラックと呼ばれる一般的な関税低減対象品のすべてについて関税をなくす取り決めになっています。ASEANのなかでも先進的な国となるASEAN6(タイ、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール)と中国にいたっては、2010年でノーマルトラックに括られた品目の関税は撤廃されています。
– | ASEAN6カ国と中国 (タイ、インドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール) | ASEAN4カ国(CLMV)カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム |
---|---|---|
ノーマルトラック | 2010年で関税撤廃(例外品も2012年で完全撤廃) | 2015年で関税撤廃(例外品も2018年で完全撤廃) |
Sensitive track | 2012年に関税を20%まで落とす、2018年には0~5%まで落とす | 2015年に関税を20%まで落とす、2020年には0~5%まで落とす |
Highly Sensitive track | 2015年に50%以下まで落とす | 2018年に50%以下まで落とす |
国家間で関税の撤廃や低減についての話し合いを行う場合、通常、品物をいくつかのカテゴリーに分けて検討を行っていきます。これは国によって品目によっては関税を低減することができない品目があるためで、ほとんどの貿易協定ではこの点を考慮し、双方からそうした品目については特別の配慮が必要なため、関税の低減に時間を掛けたり、低減対象からしばらくは除外するなどの措置がとられています。
ACFTAの場合、双方とも積極的に関税を下げていく、いわゆる一般的な関税低減の対象品をノーマルトラック(Normal Track)と括り、すぐには大きく関税を下げることが難しかったり特別な配慮が必要なものをセンシティブトラック(Sensitive Track)とさらに高いレベルでの配慮が必要な高度センシティブトラック(Highly Sensitive Track)とに括っています。
互恵関税率についての規定(Reciprocal tariff rate treatment)
ACFTAは日本ではあまりなじみのない互恵規定とも呼ばれるルールが盛り込まれており、これは片方の国が関税の譲許を行っていたとしても、もう片方の国が同一品目についての関税譲許を行っていなかった場合、関税の減免を行わない、というものです。
ACFTAによる関税率を調べる場合は、この貿易対象国で輸送品が互恵規定にあたらないものかどうかを双方の譲許表を見て確認する必要があります。
ACFTAの特恵関税を受けられるかどうかは以下の2点のいずれかを満たす必要があります。
1.貿易対象となる物品が中国-ASEAN加盟国の双方でノーマルトラックに指定されている
2.双方で対象物品がセンシティブトラックだが、関税率が10%以下で輸入国の関税率よりも低い
通常、関税は貿易の輸入国側の情報のみで調べていきますが、ACFTAの場合は、輸出国がどのような関税譲許を行っているのかによって、輸入国側の対応も変わるため、留意が必要です。また、この協定が二国間のバイ協定ではなく、多国間のマルチ協定になっているため、ASEAN加盟国ごとにどのような品目について関税をなくしていくのか、あるいは守っていくのか違いがあります。
ACFTAの互恵関税率に関する条文
ANNEX 2
MODALITY FOR TARIFF REDUCTION/ELIMINATION FOR TARIFF LINES
PLACED IN THE SENSITIVE TRACK
に規定されている互恵関税率。
6. The reciprocal tariff rate treatment of tariff lines placed by a Party in the Sensitive Track shall be governed by the following conditions:
(i) the tariff rate for a tariff line placed by a Party in the Sensitive Track must be at 10% or below in order for that Party to enjoy reciprocity;
(ii) the reciprocal tariff rate to be applied to a tariff line placed by a Party in the Sensitive Track shall be either the tariff rate of that Party’s tariff line, or the Normal Track tariff rate of the same tariff line of the other Party or Parties from whom reciprocity is sought, whichever is higher; and
(iii) the reciprocal tariff rate to be applied to a tariff line placed by a Party in the Sensitive Track shall in no case exceed the applied MFN rate of the same tariff line of the Party or Parties from whom reciprocity is sought.
対象国
中国とASEAN諸国の計11カ国。
ブルネイ
カンボジア
中国
インドネシア
ラオス
マレーシア
ミャンマー
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
ACFTA発効日
物品貿易
2005年1月1日
サービス貿易
2007年7月1日
改訂状況
2012年の第3議定書がもっとも新しい改訂となります。
Third Protocol to Amend the Framework Agreement on Comprehensive Economic Co-Operation Between the Association of Southeast ASIAN Nations and the People’s Republic of China, 19 November 2012
発給機関
中国
国家質量監督検験検疫総局が各地に設置した出入国検験検疫局
Entry-ExitInspection and Quarantine(EEIQ) Bureau, General Administration of Quality Supervision, Inspection and Quarantine(AQSIQ)
2005年7月20日発効
シンガポール
税関 Singapore Customs
関税貿易業務部(Tariffs and Trade Services Branch = TTSB)
2005年7月20日発効
http://www.customs.gov.sg/topNav/hom/index.html
マレーシア
国際貿易産業省
Ministry of International Trade and Industry(MITI)
2005年7月20日発効
http://www.miti.gov.my/cms/index.jsp
タイ
商業省外国貿易局
Department of Foreign Trade(“DFT”), Ministry ofCommerce
2005年7月20日発効
インドネシア
商業省
IPSKA(商業省の委託機関)
“Instansi Penerbit SuratKeterangan Asal”
2005年9月30日発効
http://e-ska.kemendag.go.id/cms.php/form
ブルネイ
外務貿易省貿易開発局Department of TradeDevelopment(DTD), Ministry of Foreign Affairs & Trade(MOFAT)
2005年7月20日発効
フィリピン
マニラの関税局輸出調整部
Export Coordination Division, Bureau of Customs
又は各港の財務省下の税関輸出部 Export Division (ED) in district ports Bureau ofCustoms, Department of Finance
2005年7月20日発効
ベトナム
商工省管轄下の各地区の輸出入管理課
Regional Export-ImportManagementBureaus underthe Ministry ofIndustry andTrade (MOIT)
2005年7月1日発効
ラオス
商工省輸出入局の原産地証部門、及び地方の商工サービスオフィス
Certificate ofOrigin (CO)Division underthe Departmentof Imports andExports in theMinistry ofIndustry andCommerce,including allprovincial tradeand industryservice offices
2005年7月20日発効
カンボジア
商業省多国間貿易部MultirlateralTradeDepartment(“MTD”),Ministry ofCommerce(“MOC”)
2008年2月6日発効
ミャンマー
商業省貿易局Directorate ofTrade, Ministryof Commerce
2005年7月1日発効
ACFTAの原産地規則
一般規則と品目別規則の双方があり、HSコードごとに適用されるものが異なります。
一般規則(Annex 3 Rule 4 General Ruleの項目に記載)
原産比率 付加価値基準40%以上(非原産材料の割合がFOB価格の60%を超えない)
計算式
(非原産材料費+原産不明の材料費)/FOB価格 x 100% < 60%
非原産材料の価格は、輸入時のCIF価格か、加工が行われ最初に確認することができた支払い価格
品目別規則 Trade in GoodsのAnnex 3の末尾にあるAttachment B Product Specific Rulesに記載
日本での協定とは少々異なり、品目別規則にはExclusive RuleとAlternative Ruleの2カテゴリーあります。
A. Exclusive Rule/Criterion
この部分に分類されている品目は、表に記載の原産地規則に従います。基本的にHSコード51類(対象HSコード5103.20、5103.30、5104.00、5105.31、5105.39、5105.40)の6品目しかありません。
B. Alternative Rules
この部分に分類されている品目については、指定された品目ごとに記載されている原産地規則か、一般規則のいずれかを選ぶことができます。
関税分類番号変更基準(42品目)と、加工工程基準(424品目)の品目が列挙されています。AFCTAの原産地規則において、一般規則は付加価値基準(原産率40%以上)のみとなっているため、このAlternative Rulesの指定された品目については、CTC基準や加工工程基準を適宜選択することができます。
救済規定
累積
ACFTAでも使用可能です。輸入国、輸出国のいずれかの原産品は、双方の国にとっての原産品とみなすことができます。
ACFTAの協定条文
ACFTAの協定条文は、締結国の所管官庁のWebサイトやASEAN事務局のサイトで閲覧やダウンロードが可能です。日本からのアクセスが原因なのか、社内のネットワーク環境等が原因かは不明ですが、頻繁にアクセスできなくなることがあるため、以下にASEAN協定条文の元ファイルを参考までにアップロードします。ページ下部の情報リソースにリンクをはっていますが、シンガポールやマレーシア、中国の各政府のサイトや、ASEAN事務局のサイトなどのうち、シンガポールや中国のサイトは比較的安定して閲覧できます。
下表の条文の順番は、ASEAN事務局同様、新しい改定議定書が上に来る形になっています。
最初の枠組み協定である「Framework Agreement on Comprehensive Economic Co-Operation Between ASEAN and the People’s Republic of China, Phnom Penh, 4 November 2002」からはじまっています。
文書名 | 概要 |
---|---|
The Sixth Consultations between the ASEAN Economic Ministers and the Minister of Commerce of the People | |
ASEAN-China Agreement on Trade in Services Media Statement |
ACFTAにおける協定締結各国の関税率
- ブルネイ側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- カンボジア側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- 中国側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- インドネシア側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- ラオス側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- マレーシア側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- ミャンマー側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- フィリピン側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- タイ側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
- ベトナム側のACFTA利用時の関税率、関税低減スケジュール
ACFTAに関する情報ソース、関連リンク
- 各国の関税低減スケジュール|マレーシア(MITI経済省)
- ACFTAの概要(シンガポール政府)
- ACFTA協定条文(シンガポール政府)
- ACFTA(中国政府、中文での翻訳あり)
- ASEAN – China Free Trade Area 協定条文(ASEAN事務局)
- ACFTA|中国-ASEAN協定における各国の発給機関と原産地証明書の発給手数料(JETRO)
- ACFTA|ASEAN‐中国自由貿易協定(ACFTA)の 物品貿易協定についての概要(JETRO)
- ACFTA(中国ASEAN自由貿易協定)の特恵関税適用|JETRO 貿易・投資相談Q&A
- ASEANの貿易協定活用マニュアル(JETRO)
- ASEAN – China Free Trade Area協定条文、改定・更新情報|ASEAN事務局