EUにおけるGSP

GSPとは何か

GSPとは、開発途上国からの輸入物品を無税にしたり低税率にしたりすることで、経済的に貧しい国の発展を支援する為の仕組みの一つです。Generalized System of Preferencesの頭文字をとった名称です。日本語では「一般特恵関税制度」と呼ばれます。先進国の多くでは、同様のスキームを持っていますが、EUは特にこうした途上国支援のスキームに力を入れています。2014年1月1日から新たなGSPが適用されています。EUのGSPは、EU加盟国すべてに対して有効です。

巨大な制度であり、法規や関連公式文書が多い点、変更が多い点からも紐解くのに時間と労力のかかる制度です。また、文書は欧州議会の公式サイトにて公開されますが、古い文書から改訂された文書へ必ずしもリンクがされているわけではない為、旧版と最新のものとを毎回照らし合わせる必要があります。

直接的には輸入者である先進国側の企業の関税費用が大きく下がるか、ゼロになるため、自由貿易協定や経済連携協定と並び、関税低減スキームの一つとして企業で活用されています。

WTO(世界貿易機関)
が加盟国に課しているルールの一つに、関税率について国ごとに差別的な待遇をしてはならない(ある国に対して適用している最も安い関税率を他のWTO加盟国に対しても適用する、最恵国待遇【MFN税率の適用】)、というものがありますが、FTA協定と同様、GSPもこの最恵国待遇原則の例外扱いになっています。

GSPを用いる場合も、対象国での品目ごとの原産地規則を満たしており、かつGSP専用の原産地証明書が必要になります。

多くの国で、GSPでは自由貿易協定や経済連携協定と似たルールも用いられている為、同様のものと考えられがちですが、「貿易協定」とは異なり、先進国側で認定した国に対しての免税や関税の優遇を一方的に行うものになります。したがって、本来的には自由貿易協定とは異なるスキームですが、関税の減免効果を持つ仕組みであるため、同様の使われ方をしています。

なお、GSPの対象となっている国がEUとFTA、EPAを締結すると、2年間は移行期間としてGSPを使うことができますが、それ以降はその締結した協定を用いた関税減免を行うことになります。

なお、実際の適用においてはEU側が公開しているルールの他に、一般にform A、フォームAと呼ばれるGSP用の原産地証明書を発行する輸出国側にも、国ごとに発行をめぐるルールがあります。原産性を証明するための証拠書類(エビデンス)についても、どのようなものをどのような形で保存しておくべきかは、現地で原産地証明書を発行する機関へ確認する必要があります。

EUにおけるGSPの特徴

EUのGSPを構成する三つの制度

EUでは現在3種類のGSP制度を持っており、輸出元に応じて使い分けることになります。これらすべてがGSPであり、この3つはGSPを構成する要素とも言えます。

1.標準のGSP

タリフライン全品目の66%で関税の減免。物品ごとにセンシティブ品目(S)と非センシティブ品目(NS)を設定しており、NS品は原則無税、S品には一定の関税譲許を行うというものです。

2.GSP+(GSPプラス)

標準のGSPと同じ品目についてさらなる関税の減免を行う仕組みです。

GSPを構成する制度の一部で、アルメニア、ボリビア、カーポ・ベルデ、コスタリカ、エクアドル、グルジア、モンゴル、パラグアイ、パキスタン、ペルーの10ヵ国に対し、より低い関税率の適用、卒業条項の適用対象外などの特典を設けた新制度となります。2014年1月1日から適用され、EUへの貿易依存度が高い、輸入実績等、特定の要件のもと、選ばれます。

3.EBA制度(Everything But Arms)

タリフライン全品目の99%について関税を無税、輸入割当の対象外に指定。
これは、開発途上国のなかでも特に貧しい国となる後発開発途上国(LDC)を対象としたもので、武器以外すべての物品につき、無税と、輸入割当の対象外とするという関税面で破格の待遇を行うものです。

2014年1月1日から、より強化されたEBAが有効となっていますが、受益者となるLDC(後発開発途上国)が限定される形となりました。

EUのGSPで定義されているLDCに該当する国は国連による為、2014年1月時点で49カ国となり、経済的にここから外れた場合はこのEBA制度によるLDC特恵税率(免税)が適用できなくなりますが、EUでは移行期間として3年間はEBAのフレームを使えるようにしています。

日本企業、日系企業にも関係してくるアジア圏のLDCとしては、ラオス、カンボジア、ミャンマー(協議中)、バングラデッシュ等があります。

EBAの受益者は誰か(欧州議会公式)

EUのGSP制度の対象となる国

以前は177カ国が対象となっていましたが、2014年1月1日からは、標準のGSPで90カ国、GSP+で10カ国、EBAで49カ国となります。

なお、標準のGSPというのはEUでいうところのstandard GSPになりますが、EBAの49カ国も含むカウントとなるため、厳密には41カ国ということになります。

EUにおけるGSP対象国(2014年1月1日~)
国名 英文表記 適用されるGSPの種類
アフガニスタン Afghanistan EBA
アンゴラ Angola EBA
アルメニア Armenia GSP+
アゼルバイジャン Azerbaijan GSP(2014年2月22日迄以降MFN)
バングラデッシュ Bangladesh EBA
ベニン Benin EBA
ブータン Bhutan EBA
ボリビア Bolivia GSP+
ブルキナファソ Burkina Faso EBA
ミャンマー Myanmar EBA
ブルンジ Burundi EBA
カンボジア Cambodia EBA
カーボベルデ Cape Verde GSP+
中央アフリカ Central African Republic EBA
チャド Chad EBA
中国 China GSP(品目により制限有)
コモロ諸島 Comoros Islands EBA
コンゴ共和国 Congo GSP
コンゴ民主共和国(旧ザイール) Congo (Democratic Republic) EBA
クック諸島 Cook Islands GSP
コスタリカ Costa Rica GSP+
ジブチ Djibouti EBA
東ティモール East Timor EBA
エクアドル Ecuador GSP+
赤道ギニア Equatorial Guinea EBA
エリトリア Eritrea EBA
エチオピア Ethiopia EBA
ミクロネシア連邦 Federal States of Micronesia GSP
ガンビア Gambia EBA
グルジア Georgia GSP+
ガーナ Ghana EPA
グレナダ Grenada EPA
ギニア Guinea EBA
ギニアビサウ Guinea-Bissau EBA
ガイアナ Guyana EPA
ハイチ Haiti EBA
インド India GSP(制限有)
インドネシア Indonesia GSP(制限有)
イラン Iran GSP(但し2014年2月22日迄以降はMFN)
イラク Iraq GSP
ケニア Kenya EPA
キリバス Kiribati EBA
キルギスタン Kyrgyzstan GSP
ラオス Laos EBA
レソト Lesotho EBA
リベリア Liberia EBA
マダガスカル Madagascar EBA
マラウイ Malawi EBA
モルディブ Maldives GSP
マリ Mali EBA
マーシャル諸島 Marshall Islands GSP
モーリタニア Mauritania EBA
モンゴル Mongolia GSP+
モザンビーク Mozambique EBA
ナウル Nauru GSP
ネパール Nepal EBA
ニジェール Niger EBA
ナイジェリア Nigeria GSP(制限有)
ニウエ Niue Island GSP
パキスタン Pakistan GSP+
パラグアイ Paraguay GSP+
ペルー Peru GSP+
フィリピン Philippines GSP
ルワンダ Rwanda EBA
サモア Samoa EBA
サントメ・プリンシペ Sao Tome & Principe EBA
セネガル Senegal EBA
シエラレオネ Sierra Leone EBA
ソロモン諸島 Solomon Islands EBA
ソマリア Somalia EBA
スリランカ Sri Lanka GSP
スーダン Sudan EBA
シリア Syria GSP
タンザニア Tanzania EBA
タイ Thailand GSP(制限有)
トンガ Tonga GSP
トルクメニスタン Turkmenistan GSP
ツバル Tuvalu EBA
ウガンダ Uganda EBA
ウクライナ Ukraine GSP(制限有)
ウズベキスタン Uzbekistan GSP
バヌアツ Vanuatu EBA
ベトナム Vietnam GSP(制限有)
イエメン Yemen EBA
ザンビア Zambia EBA
ジンバブエ Zimbabwe EPA

欧州議会によるGSPの適用方法

GSP-ユーザーガイド-掲載箇所(欧州議会)

3年ごとに見直しが行われていたが、10年に変更となっています。対象国から外れても、移行期間として、最低1年は設けるルールです。

対象国からの除外は、世銀による分類で、high income かupper middle incomeが3年連続で続いた場合となります。また、セーフガード等の発動要件や手順を明確にしています。

EUのGSP適用品目

通常のGSPでは、品目を非センシティブ(non-sensitive)とセンシティブ(sensitive)の二つに分け、前者は無税、後者については一定の関税率削減を行っています。

国ごとに適用対象外となる品目も定めています。(下記、卒業規定参照)

原産地規則について

EUのGSP原産地規則ガイド(JETRO日本語訳、2012年5月)

GSP原産地規則に関するガイド(欧州議会)

ほとんどの品目は、関税分類番号変更基準か、付加価値基準のどちらかを満たせばよいというものです。

ただし、EU固有のルールとして、最小限度を超える加工がなされていること、との条件付です。

付加価値基準

付加価値基準を使う場合、トレーシングと呼ばれる特殊ルールが適用されます。これは、ある部品を「原産品」とした場合でも、その中に含まれる非原産材料は別途計算する、というものです。

こうした計算方法に関する特殊なルールには、ロールアップロールダウン等がありますが、これらが一定の原産品割合(非原産品割合)に達すれば、残りの部分の特定・計算が不要になるのに比べ、トレーシングが使われている場合は、非原産品、原産品のすべての明細がないと算出ができません。

1次サプライヤーだけでなく、部品を供給する2次サプライヤー、その部品を構成する部品を供給する3次サプライヤー、その材料を供給するメーカーといった具合に、工業製品の多くの供給関係は多層構造化しています。

この付加価値基準で計算を行う場合、自社製品を構成する部品のメーカーに、それが原産品であるstatement(宣誓文)をもらうだけでなく、その部品内に含まれている非原産の割合がわからないと、計算ができないことになります。

関税分類番号変更基準

付加価値基準のかわりに使うこともできる関税分類番号変更基準は項変更(上4桁)となっているため、号変更(上6桁)基準に比べてややハードルは上がっているものの、輸出品を構成する価格の中の非原産部分のコストをトレースし、エビデンスを集めることに比べればハードルは低くなります。

その他、EUのGSPにおけるルール

EUのGSPには、自由貿易協定や経済連携協定ではあまり見られないタイプのルールもあります。手続きは必要なものの、「累積」についてかなり弾力的なルールを採用しています。

地域累積

いくつかの地域グループが設けられ、例えば、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムのグループ内で累積が使えます。例:ブルネイで1工程→インドネシア2工程→ベトナム仕上げ工程の場合、すべて原産国での加工として合算できる。

拡張累積

輸出国とFTAを締結している国の原材料を使ったり、加工を行った場合も、原産品扱いにすることができる。(ただし、別途申請が必要)。EUとのFTA締結国も同様(但し同意国のみ)。

許容限度

デミニマス規定のことで、品目にもよるが、例えばEXW価格の15%までの部材であれば、部材と完成品が同じHSコードであっても加工がなされたとみなせる(関税分類番号変更基準が成立する)

卒業規定(graduation)

卒業条項とも呼ばれます。品目別卒業と国別卒業の2パターンがあり、品目別は競争力が出てきた品目をsectionごとに除外扱いするもので(ある国からの特定の品目だけ適用しないようにする)、国別はその国自体をGSPの適用対象外にするものです。

ある品目を卒業させるかどうか、はsectionごとに決められます。これは、CNコード(EUのHSコード)ごとに近いものを大きな括りにまとめたものです。

EUのGSPで適用されない品目(国別:中国、コスタリカ、エクアドル、インド、インドネシア、ナイジェリア、ウクライナ、タイ)

日本、EU、米国におけるGSPの卒業規定の違い(JETRO)

GSPのアジア各国への適用で日米EUに差異-新・新興国への進出とGSPの活用(1)JETRO

EUのGSPで使う原産地証明書の有効期間

EUでのGSP利用の為のform A(原産地証明書)は発行から10ヶ月の間が有効期間となります。

エビデンスの保存期間

計算や申請に用いた帳票、インボイス等の書類は3年間は保存しておく義務があります。

代理人の選任

代理人にかわりに発行してもらうことが可能です。(但し、罰金等の責任は輸出者にあり)

発給機関について

form Aの発行は、輸出側の税関や商工会議所などの指定された機関となります。国によって管轄が異なりますので、個別に確認が必要です。一般的に、原産地証明書には複数の種類がありますが、種類ごとに発給機関は異なります。

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