VAT番号とは|EUのVAT番号の検索方法、日本企業で取得する必要がある場合

VATとは、Value Added Taxの頭文字を取ったもので、付加価値税のことです。日本の消費税もこの付加価値税の一種となります。VAT番号とは、EU関連で使われている場合、企業が政府機関に登録しているVATの支払者番号のことを意味しています。VAT番号を取得するには、VAT登録が国ごとに必要となります。世界の多くの国の税制ではこのVATが採用されていますが、以下、EUにおけるVAT番号について述べていきます。

この番号は、EUで商取引を行っている企業の大半が取得している番号で、ビジネスを行う際、特にインボイスのやり取りの際に、相手企業からVAT番号を尋ねられることもあるかもしれません。EUでは企業ごと、国ごとにVATに関する支払や手続きを管理するため、いわゆる背番号制を採用しています。このため、EU圏内、EU諸国内でVATを支払う必要のある企業の多くはこのVAT登録番号を持っています。欧州議会のサイトではこのVAT番号の検索もできます。

VAT番号の意味と目的

このVAT番号の目的は、VATの二重支払いを防ぎ、正しい課税地で支払ったり、本来支払わなくてもよかったVATの還付手続きを受けたりする際に用います。具体的には仕入れ控除を行う際にこのVAT番号が明記されているインボイスを用いる為、EU側の企業からVAT番号が何番なのか問い合わせが来ることになります。

EUは加盟国間で国境を超える取引を行っても関税はかかりませんが、VATはその資産の譲渡が行われた国が「課税地」となり、その国が独自に税率を設定しているVATを支払うことになります。このため、EU加盟国の間で物品のやり取りが国境を跨いで活発に行われている中でも、課税地でのVATは支払う義務がありますが、これを管理する仕組みがないと昨今の複雑な商取引の流れの中では、多数の国が絡み合っていると、どの時点でVATが支払われているのか、支払うことになっているのかわからなくなってきます。所轄となる税務署の国を特定させたのちに、適正なVATを支払う為の管理に使われるのがこのVAT番号となります。

EU間の取引で関税はなくともVATは各国で設定

EUの加盟国はVATの税率をそれぞれ自由に設定できる為(VATの最低税率だけEUで統一してルール化しています。また品目ごとに異なる税率の設定ができます。)、国と物品のカテゴリーによって税率が異なることが一般的です。どこか一つの加盟国で支払ったから、VATについて支払は完了したというわけにはいかず、法令に則った正しい課税地の所轄税務署に納税する必要があります。支払いを間違ったとしても、本来支払うべきであった国の税務署は何ら控除や免除などは行ってくれず、延滞税等がかかる場合があります。

実務上は、VAT番号を用いて控除を受ける場合、取引に用いられるインボイスをベースに行うことになります。このため、VATの控除を受ける相手との取引ではインボイスにVAT番号を記載したり、VAT税額を正確に記載する等、いくつかの要件があり、これを満たさないと仕入税額の控除が認められません。日本の消費税が帳簿によるものとは対照的で、EUにおけるVAT番号を用いた仕入控除には、このインボイスが必須となります。

日本の企業もVAT番号を取得する必要があるのか

日本にある企業がこのVAT番号を取得しなければならないケースというのは、現地において何らかの売上が発生する等の場合です。

輸出取引によってEU域内に物品を入れ、顧客から支払いを受ける場合はこれに該当しないので、VAT番号は基本的に不要となります。例えばFOBやCIF、EXW、DDUなどの貿易条件でEUの企業へ物品を輸出する場合等は、VATの支払いは現地側が行います。

このため、EUに輸出する場合において、通常は日本企業が取得することは珍しく、EUの企業から輸入するに当たってはまったく不要です。輸入の際にEUのVATを支払う必要も全くありません。ただし、日本へ輸入する場合には輸入通関時に消費税は当然かかってきます。

但し、貿易条件の際に、DDPのように貿易上の全行程の費用を日本側の売り手で支払う内容になっており、その中でVATの支払いについても日本側が行うという内容になっている場合には注意を要します。

VATを納税する際に用いる番号ともなるため、こうしたことを頻繁に行うのであれば当該国でのVAT登録を行うことになります。

VAT番号の検索

自社で取得したVAT番号がきちんと当局に登録されたものであるか、また取引先から通知を受けたVAT番号が正しい番号であるか(登録済みの番号かどうか)を調べる為には、下記の欧州議会のVIESのサイトが便利です。インボイスへの記載等の前に、番号の誤記を防ぐ為にも有用です。

VAT number validation(欧州議会公式)VAT番号の検索

上記サイトにて欧州各国で登録されているVAT番号の検索ができます。厳密にいえば、伝えられたVAT番号が本当に登録された番号であるかを確認するためのサイトです。一つの企業でも、複数の国でVAT登録を行うことも一般的であり、このページのMember stateの部分から、まずは登録された国をドロップダウンで選択し、隣のセルに番号を入力した後、verifyボタンをクリックすることで番号の正誤、正統性を調べることが出来ます。

EU加盟国におけるVATの税率の違い

VATは日本では消費税と呼ぶように、国によって呼び名が異なります。下表はEU諸国でのVAT名称の一例です。また、先述の通り、VATの税率は同じではなく、EU加盟国がそれぞれ別個に設定しています。

EUにおけるVATの名称と税率の一覧
国名 VATの呼び名 標準税率
日本【参考】 消費税 8%(2014年4月~)
フランス TVA 19.6%
ドイツ UST(MWST) 19%
ブルガリア DDS 20%
ポーランド VAT(PTU) 23%
ハンガリー AFA 27%
ポルトガル IVA 23%
スペイン IVA 21%
イギリス VAT 20%
デンマーク MOMS 25%
スウェーデン MOMS 25%
ノルウェー MVA 25%
オランダ BTW 21%
オーストリア UST(MWST) 20%
ベルギー TVA(BTW) 21%
ギリシャ FPA 23%
アイルランド VAT 23%

VAT番号の構成

VAT番号はEU加盟国に共通しているわけではなく、支払いを行う国ごとに取得する必要があります。下記は、欧州議会のサイトにて公開されているVAT番号の採番法則についての一覧表となります。基本的には、冒頭の英文字2文字でその国名を示し、あとの数字やアルファベットの文字が続くことになります。

EU加盟国ごとのVAT番号の振り方、構成
国名 番号例 番号の構成
オーストリア(AT) ATU11111111 AT以降、9文字の連続した文字列
ベルギー(BR) BE0111111111 BE以降、10桁の数字
キプロス(CY) CY11111111L CY以降、9文字。Lは数字ではなく文字。
チェコ(CZ) CZ99999999、CZ999999999、CZ9999999999 CZ以降、8桁、9桁、10桁の数字のいずれか
ドイツ(DE) DE999999999 DE以降、9桁の数字
デンマーク(DK) DK99 99 99 99 DK以降、4つのブロックに分かれた2桁の数字
エストニア(EE) EE999999999 EE以降、9桁の数字
ギリシャ(EL) EL999999999 EL以降、9桁の数字
スペイン(ES) ESX9999999X4 ES以降、X部分はアルファベットか数字、9の部分は数字
フィンランド(FI) FI99999999 FI以降、8桁の数字
フランス(FR) FRXX 999999999 FR以降、Xは数字か文字、9の部分は数字
イギリス(GB) GB999 9999 99、※組織により付与される番号体系が異なる。例:GB999 9999 99 999(Branch traders)、GBGD9996(Government Departments)、GBHA9997(Health Authorities) GB以降、数字やアルファベットを記載。ブロックに分かれるタイプと連続したタイプがある。
クロアチア(HR) HR99999999999 HR以降、11桁の数字
ハンガリー(HU) HU99999999 HU以降、8桁の数字
アイルランド(IE) IE9S99999L、IE9999999WI 9は数字、Sは数字か文字、+や*、Lは文字
イタリア(IT) IT99999999999 IT以降、11桁の数字
リトアニア(LT) LT999999999、LT999999999999 LT以降は9桁、もしくは12桁の数字
ルクセンブルク(LU) LU99999999 LU以降、8桁の数字
ラトビア(LV) LV99999999999 LV以降、11桁の数字
マルタ(MT) MT99999999 MT以降、8桁の数字
オランダ(NL) NL999999999B99 NL以降12文字で構成。ただし、10番目のBの部分は常に固定でB。
ポーランド(PL) PL9999999999 PL以降、10桁の数字
ポルトガル(PT) PT999999999 PT以降、9桁の数字
ルーマニア(RO) RO999999999 RO以降、2桁から10桁の数字
スウェーデン(SE) SE999999999999 SE以降、12桁の数字
スロベニア(SI) SI99999999 SI以降、8桁の数字
スロバキア(SK) SK9999999999 SK以降、10桁の数字

EUのVATに関する参考サイト、関連リンクの一覧



FCLとLCLの違い

FCLはフルコンとも呼ばれ、海上輸送する場合、コンテナを丸々一つ貸切の状態で輸送する方法でFull Container Loadの頭文字をとった略称です。この輸送方法は、基本的に輸出者がコンテナへの詰め込み作業(バンニング)を行ったあとは、コンテナを途中で開けることなく、輸入者の指定する場所まで届けられます。コンテナを指定場所まであけないため、荷物の紛失や破損などが起こりにくいと言うメリットや、品物によっては混載ができないものがあり、そうした場合にはFCL貨物として輸送することになります。

ただし、詰め込む荷物が十分にないとコンテナがすかすかになってしまうこともあり、一定量の貨物がある場合によく使われます。量が少なくともバンニングの際にしっかりとコンテナ内に固定されていれば、輸送は可能です。

LCLとは、Less than Container Loadの略で、いわゆる一つのコンテナに複数の輸出者の荷物を詰めて送る混載便のことです。輸送する量によっては価格が安い点や輸送便の数等から使い勝手がよいですが、混載である為、着荷港のCFS(Container Freight Station)で一旦コンテナをあけて、中にある荷物を仕分けし、向け地によってトラック等に積み替えていきます。このため、国や港によってはCFSがきちんと整備されておらず、仕分け中の荷物の破損や紛失などのリスクもあります。

CFSとそこでのフォークリフト等での荷物の取り回し、その先の陸送がしっかりしていれば、基本的に問題はありませんが、現地での長期休暇のあとなどには滞留している貨物でごった返すことがあったり、扱いが元来乱暴であったりするような場合、破損や破袋などのリスクがあることには留意が要ります。フルコンと呼ばれるFCLの場合は、この辺りのリスクを軽減できるメリットがあります。

FCLとLCLのどちらを使うか迷うような場合はこうした点も考慮の上、検討が必要です。



EPA申請における社内運用ルールをどうすべきか

個人で商売をやっているのであれば、さして問題にもなりませんが、企業でEPAの判定申請や発給申請を行う場合、複数名で行うことも珍しくなく、また実施する部署によって、EPAの制度の理解度に差があると思わぬトラブルにつながることがあります。関連する法令を遵守し、非違が起きないような社内ルールをしっかり構築して運用していく必要があります。

何か違反があった場合は、自社と相手側(顧客や海外の拠点等)の双方に罰則が課せられます。多額の輸出入を行っている企業にとっては、品物によって関税額が輸送費よりもはるかに大きいこともあり、EPAを用いることの恩恵は軽く数億円を超えてきますが、違反があった場合の罰則金はこうした恩恵を受けた金額を大きく上回ってしまうこともある、ということです。

社内ルールというのは、つまるところ、協定(条約)と日本の国内法、相手国側の国内法を遵守しつつ、スムーズに輸出品に対してEPAの適用を推進するための仕組みのことです。

極論すれば、「原産地規則」をどのようにして守り、その証明に必要な証拠書類を正しく理解し、保管しておくということに尽きます。自由貿易協定や経済連携協定などの、関税を減らすことができる協定というのは、その協定を結んでいる国同士の「原産品」にしか適用されません。その「原産品とは何か」を定義したルールが原産地規則で、協定ごと品目ごとに固有のルールが設けてあります。

いけいけどんどんで、遵守すべき法令がよくわからずに「とにかくEPA適用させて免税を」というスタンスの企業もありますが、原産性の判定方法が間違っている等の話になれば、減免効果をはるかに上回る罰金をあとから支払うことにもつながりかねません。

実際のところ、故意・過失を問わず、貿易協定というのは破りやすい法令・ルールであるということ、その罰則も国ごとに違うということを管理者の方は肝に銘じておくべきです。

故意の場合というのは、申請時に担当者の裁量が大きいこともあり、例えば中国製のものを日本製であると偽った申請も簡単にできてしまう、ということです。そこまで露骨でなくとも、部材の一部分の原産性の解釈を変えてしまう、判定に都合の悪い部品を申請書から抜いてしまうといったことが容易くできてしまいます。

こうした細部をうがつようなチェックは発給機関(日本商工会議所)では行いませんので、企業側の良心にまかされていますが、万が一、現地から問い合わせや照会があり、こうした細工が発覚すれば、高額の反則金やEPAの利用ができなくなる恐れもあります。当然、悪質なことをやっていたのであれば、その企業が申請した過去の分もすべて洗い出したくなるのが取り締まる側の心情です。

過失の場合というのは、原産品判定のルールの理解が乏しいために起こることが多く、例えば付加価値基準の計算方法を誤解していた、計算を間違えていた、関税分類番号変更基準における構成要素や部品の考え方が間違っていたというようなことです。これは社内にこうしたことを担当する部署がなかったり、会社としてノウハウをきちんと蓄積し社内啓蒙・教育していないような場合に起こります。

過失や何かのミスだったといっても、それは通じませんので、しかるべき罰則を受けることに変わりはありません。

また為替相場の大きな変動によって購入している部材の原産率が変わってしまい、結果として日本製という認定を受けられなくなっているにも関わらず、継続して日本製のものとしてEPAの適用申請を受けていた、というようなケースもあります。

上記のようなことを防ぐためにも、EPAを積極的に活用している企業はコンプライアンスの部分にも注力していく必要性がますます高まっています。というのも、前述したとおり、破りやすい法令であることを逆手により、日本の原産性がなかったり、証拠書類がなかったりするようなものでも現実には多数申請がなされているため、現地税関からのチェック要請である「検認」と呼ばれる件数が急増しているという話も聞きます。現地税関としても摘発して反則金をとることが確実にできそうな案件に注力したいのが心情でしょう。

社内ルールの整備に際して、EPAにおける業務の内容を見ていくと、まず、日本におけるEPAに関する業務というのは、「特定原産地証明書」を発行して現地の輸入申告までに、現地側の通関業者へ届けるまでのプロセスを指します。

このプロセスは大きく分けると、「判定申請」と「発給申請」の二つがあります。判定申請のためには「調査・研究」といった部分もありますが、適用における実務では「判定」と「発給」の申請が仕事となります。

「判定申請」とは、その製品が日本製か、相手国の原産品であるということを証明するための申請です。貿易協定の条文に照らし合わせ、その品目の原産地規則を調べ、社内外からエビデンスとなる書類を集め、日本商工会議所へ申請を行います。判定申請に通過すれば、発給申請を行うことができるようになります。

「発給申請」は、判定申請に合格した品目についてのみ行うことができるもので、実際の原産地証明書の交付を受けるための申請です。インボイスやB/Lに記載されている内容が必要になるため、輸出部門や出荷部門が担うことが多いと思います。

社内における運用ルールを検討するのであれば、どの部門が社内でEPA適用申請の承認を行うのか、またその方法はといったところと、判定申請、発給申請を行うことができる部門や担当に関するルール決め等からになると思います。

EPA業務自体を一元化してどこかの部署が一手に引き受けるという方法、あるいは判定や発給などの実務上の手続きは複数の部署から行うことができるようにする方法、承認や判定内容の管理をする部署を別に設ける方法、などさまざまなケースが考えられます。

EPAは日本側の罰則は最大でも50万円の罰金となっていますが、現地側では場合により非常に大きなペナルティを課せられることもあり、毎回輸出品ごとに、日本における原産性をきちんと証明できる資料もあわせて揃え、5年間は保管しておく義務があります。こうしたチェックと管理をどのように社内で行っていくのかという運用ルールが求められます。



関税率はどこで決まるのか

国家は通常、関税自主権といって自国に入ってくる品物に自由に関税を掛けることができます。ただし、これをルールもなく無闇に使われると、貿易そのものが成り立たなくなります。あるときは中国製のものだけ関税率を500%にします、またあるときは韓国製のものの関税率を10%にします、米国製のものは無税にします、といったことをすると通商そのものが混乱してきます。

現在は、WTO(世界貿易機関)にほとんどの国が加盟しており、ここで大枠となる貿易ルールが定められており、先に述べたような差別的な待遇をWTO加盟国の間で行うことは禁じられています。いずれの加盟国に対しても最恵国待遇による税率、MFN税率(WTO協定税率)を課すことになっています。

では、TPPをはじめとする経済連携協定や自由貿易協定の税率は何なのかということになりますが、こうした協定により関税の減免は、この原則の例外となっています。

話を戻すと、関税を決めることができるのは各国ですが、それは国際ルールの影響も受けるということです。

さらに話を細かく見ていくと、ある製品、品物の関税率というのはその品物の品目によって異なります。

各国の関税というのは、このように品物によって変わるのですが、世の中にはそれこそ無数の商品がありますので、まずはこれらを分類する必要があります。

貿易における品物には、すべて例外なく、HSコードと呼ばれる番号がつけられます。このHSコードは規則性のないでたらめの番号ではなく、体系をもった番号です。上から6ケタまでの番号は世界共通で用いている番号体系で、どの製品が何番になるのかを決めています。



輸入完了後にEPAを適用させて関税還付することはできるか

関税還付とは、輸入・納税申告して関税を支払った後に、何らかの事情でその関税を返してもらうことをいいます。課税評価額を過大申告してしまう等過払いのケースや、本来は関税の減免ができたものの、対応する原産地証明書がなかったり不備があったりしたために関税の減免を受けられず、あとからそれらの特恵関税を適用させて、差額分を返してもらうといった場合が考えられます。

協定本文や施行規則等で関税還付が可能なことを明記している協定もありますが、国によっては事実上、還付は不可能となっていることもあるため、これをあてに先行で輸入手続を完了させて、あとからEPA適用を行おうとしてもできないことがありますので要注意です。

納期が許されるのであれば、輸入申告(納税申告)を保留にし、特定原産地証明書の判定申請に必要な情報を急いで集め、この証明書を現地の通関業者へ直送し、これが届いてからの通関としてもらったほうが関税の減免という側面からは確実といえます。関税還付がうまくいったという例もありますが、国や場合によっては税関やその担当者によって扱いも異なることがあります。

国によっては、関税還付の申請を行ったところ、会社に税務調査が入り、「あらさがし」のような難癖をつけられた挙句に、別件で追徴課税をとられ、関税の還付もできなくなったというようなこともあり、対応には現地の事情をよく確認したうえで細心の注意を払う必要があります。

したがって、また輸入申告が完了していないのであればEPAの適用をまず考え、現地で輸入手続きがすべて完了してしまっている場合には、現地の税務問題に精通した現地スタッフやコンサル、通関業者を通じて、関税還付手続きの可能性について模索していくとよいでしょう。

なお、過去に輸出した分の特定原産地証明書をさかのぼって発行する「遡及発給」については日本が締結しているEPAについては行うことができますので、この点では問題はありません。



特定原産地証明書の再発行はできるか

何らかの事情で発行した特定原産地証明書が現地の輸入申告の際になくなってしまったというような場合でも、申告までに時間が稼げるのであれば、日本から再度発行してすぐにクーリエ等で送って対応することは可能です。

一方で、特定原産地証明書を現地の輸入申告の際に提示したところ、「HSコードが違うので認められない」となった場合はどうでしょうか。実はこれは結構頻繁に起きることで、防止策としては事前に輸送業者・通関業者を通じて現地での輸入申告に使うHSコードを確認して、そのHSコードで日本側から特定原産地証明書を発行しておくという方法が一般的ですが、それでもHSコードが違うと難癖をつけられて関税減免の適用が受けられないことがあります。

経済連携協定や自由貿易協定における減免を最終的に認めるかどうかは現地税関の判断となる為、輸入申告時に提出された特定原産地証明書に何らかの不備があると判断された場合や、品名やHSコードに齟齬があるとされた場合、減免を受けることができなくなり、この仕組みについてはどうしようもありません。

こうした場合、日本のEPAでは、一旦輸入申告を保留とし、再度、現地側の言うHSコードや品名に変えて、特定原産地証明書を通関業者へ送りなおすことが可能です。齟齬を指摘されることが多いケースとしては、インボイスの表記事項との差異(単位の違い、経由港がある場合の仕向港名、品名のスペル間違い、日付間違いなど)がある場合、そもそも品目のHSコードが適当なものではないというケース、品名とHSコードの対応に疑義があるような場合です。

他国のEPAにおいては、一旦発行した特定原産地証明書を、同一の品目に対して内容を変えて発給することができないこともありますが、日本の場合、こうした制限はありませんので、同一品に対してメキシコへ出す場合とインドに出す場合とで異なるHSコードで申請を行うということもできます。

納期が許すのであれば、一旦輸入申告の際に特定原産地証明書がNGとなった場合でも、手続きを保留にして日本からすぐに訂正した特定原産地証明書を送りなおすという方法もあります。

一度輸入申告を行い、通常の関税を納付してしまうと、あとからEPAを適用させようとする場合は、各国の所定の手続きを経て関税還付手続きを行うしか方法がなくなりますが、この手続きを公式には認めているものの実際には還付が難しい国がほとんどであるため、輸入申告時点での対応が最も重要となります。



付加価値基準と関税分類番号変更基準の双方が求められる場合

日インド協定や日メキシコ協定など、原産地規則のうち、多くの品目の一般規則で付加価値基準と関税分類番号変更基準の二つを同時に満たしておかねばならない協定の場合、一通の計算書で申請を行っても、二通に分けてもよいことになっています。

ここで問題となるのが、VA基準とCTC基準の内容に違いがあってもよいかどうかという点です。実務上、CTC基準は多くの部品や材料から製品が構成されるような場合、合理的な範囲で「かたまり」としてそれらを管理できることになっています。この結果、例えば、ある品目を構成する総部品が2万点あったとしても、それを合理的な範囲でかたまりとして管理し、構成要素が2つや3つといった具合に、非常に大きな括りでまとめることができるようになります。

一方で、VA基準は原価構成から、原産材料と非原産材料を分けて記載したり、あるいは利益や輸送費、工賃といった「非材料」の部分から、原産率を割り出して、日本の原産資格があるかどうかを証明する方法です。こちらについても、例えば2万点で構成される製品があったとして、それらのすべてを付加価値基準の計算書に記載する必要はなく、ある程度の「かたまり」で管理することができます。

このVA基準とCTC基準を一つの品目で併用すると、部品構成が一致しないという問題が起きることがあります。特に、VA基準で非材料費からのアプローチによって利益や輸送費、設計費、製造コストのみから原産資格を証明するような場合、原産品を割り出す必要がないため、特に構成要素の不一致が起きることがあります。

実際の判定申請においては、VA基準の構成要素とCTC基準の構成要素が同じである必要はなく、各々の基準を別個に判定するための書類を作成して判定を依頼することもできます。

つまり、VA基準を単体で見て原産資格を満たしており、CTC基準についても単体で見て原産資格を満たしているのであれば、双方を満たしているということになります。



原産地規則でいう累積とは

累積は、EPAやFTAなどの貿易協定に設けられた原産地規則の一つで、救済規定の一つとも言われますが、現在、ほとんどの経済連携協定ではこの累積(ACU)が採用されています。

一言で言えば、相手国の原産品も自国の原産品として扱うことができる、というルールです。あるいは、相手国での生産を自国で生産したものとして扱えるとも言えます。

累積は付加価値基準、関税分類番号変更基準の双方で使うことができる規定で、この規定が使えるかどうかは、協定条文の本文に記載されています。今まで基準値を満たすことができなかったものでも、相手国原産品を用いているような場合、基準値を満たすことができる可能性も出てきます。

この累積規定は、日本が結ぶ経済連携協定だけでなく、他国のFTAでもわりとよく使われる規程のひとつです。FTAは協定を締結した国同士の利益に資するものであればよいため、双方の原産品だけを優遇します。こうした趣旨の為、累積とは本来的に相性がよく、導入されやすい救済規定といえます。

ただし、多国間協定の場合の累積の扱いは、それぞれの協定国の付加価値を単に加算するのではなく、それぞれの国で仕上げられた部品に対して、原産品判定を個別に行い、最終加工国で原産資格を見ることになります。

特に、多国間協定の場合には協定によってルールが違うことがあるため、累積がどのような場合に適用されるのかを調べておく必要があります。



原産資格

自由貿易協定や経済連携協定では、原産性をもつことや原産品であることを、「原産資格」を持つと表現します。原産性を付与することになる作業を、原産資格を与える作業と呼んだりもします。

ある輸出品が原産資格をもつかどうか、というのはどの協定に基づいた原産地規則に従うのかという問題でもあります。

日本が締結する多くの経済連携協定では、付加価値基準関税分類番号変更基準加工工程基準の3つが主な基準として使われており、協定や品目によって、この3つの中でもさらに基準が細かく分かれています。

すべての自由貿易協定や特恵貿易では、「原産資格」のない物については、特定原産地証明書の発行ができないため、関税の減免の恩恵を受けることはできません。



原産地規則のロールアップには使用回数制限はあるか

原産地規則として、付加価値基準を採用している経済連携協定(EPA)の場合、ロールアップと呼ばれる特殊なルールを採用している協定があります。これは救済規定とも呼ばれ、適用がしづらい物品について、この規定を使うことで、原産性を確保できる場合があります。

具体的には、輸出品となる製品を作るときに、日本製と外国製の部品の複数を組み合わせて作られている部品Aを使っているとします。この部品Aが、協定の原産地規則により「日本製」ということになった場合、部品Aの中に含まれている外国製部品の価格もすべて日本製扱いにするというものです。

このルールを使うと、例えば、VA基準40%以上のものを原産資格とする製品があったとします。このうち、この製品価格の40%は部品Aで占められていた場合、部品Aがロールアップを使って日本の原産性を示すことができれば、原産性の証明は完了です。さらに、部品Aのなかで材料Bが価格構成の40%を占めており、材料Bも日本製と海外製のやはりロールアップを使って日本製ということであれば部品Aが日本製ということになり、製品によってはかなり上流まで遡ってしまうことができます。

このようなことが起きる可能性が高い案件としては、1次サプライヤーから2次、3次、4次と遡っていっても、大元の源流に近いサプライヤーでの加工賃や作業費・設計費などの非材料費の比率が非常に大きい場合です。こうした場合、この源流でのエビデンスがあれば、下流へ何段階かおりていったとしても、日本の原産資格を持ったまま、という状態になります。複雑な工業製品や設備・機械などでもこうした価格構成は見られます。

では実際に何十、何百と遡っていき、すべてでロールアップを適用した結果、小さなボルト1本の日本原産性が証明できれば、大型設備そのものの日本原産性が証明で来てしまうことも理論上ありえます。

ロールアップが使える回数について日本の経済連携協定では、使用制限回数についての記載はありません。ただ、こうした無制限に救済規定を使うことについては、このルールの持つ本来の趣旨から外れてしまうこともあり、あくまで補助的な使い方が望ましいとされています。

ロールアップとは反対に、一旦ある部品が非原産となった場合は、その中に含まれる原産品部分の価格についてもすべて非原産扱いになるというロールダウン規定も、協定によっては適用されることになります。

ロールアップ規定のある協定

  • 日メキシコ協定
  • 日マレーシア協定
  • 日チリ協定
  • 日タイ協定
  • 日インドネシア協定
  • 日ブルネイ協定
  • 日フィリピン協定
  • 日スイス協定
  • 日ベトナム協定
  • 日インド協定
  • 日ペルー協定
  • 日アセアン協定

ロールダウン規定のある協定

  • 日チリ協定
  • 日タイ協定
  • 日ベトナム協定
  • 日インド協定
  • 日アセアン協定