現実支払価格

貿易取引で、実際に買い手から売り手に支払われることになる価格や、支払われた価格のことを、関税用語で「現実支払価格」と呼びます。一言で言えば、通常、インボイスに記載されている金額のことです。もっといえば、CIF価格と呼ばれる、製品の価格に仕向け港(相手国の港)までの輸送費と保険費用を加算した金額のことです。

ほとんどの関税は従価税方式をとっているため、、課税評価額(関税評価額)に関税率をかけた金額となります。この課税評価額は、以下の内容で成り立っています。

現実支払価格 + 加算要素 = 課税評価額

加算要素とは、輸入品についてのロイヤリティを貿易外で支払っている場合や、金型や部品を無償で支給し、それを用いて製造したものを輸入した場合などで、物品の価格にはオンされていないものの、輸入申告の際には加算しなくてはならないコストのこと全般を指します。



アウトインとは

日本企業が海外にある自社工場や拠点で製品を作り、それを日本へ販売のために輸入する形態をアウトインと呼ぶことがあります。こうした表現を使わない企業もありますので、一体何を意味しているのか不明な場合は、確認した方が無難です。

アウトインとは、いわゆる逆輸入のことですが、日本で販売されずに、日本でさらに加工を加えて諸外国へ輸出されたり、加工はせずにそのまま第三国へ輸出されるケースなどもあります。

加工・製造を行う国では、輸出を前提とされる場合、関税や通関面での優遇をはかる制度も国によっては存在し、活用されています。

昨今は、アウトインというよりはアウトアウトと表現されることもある海外拠点間、海外工場間など、日本を抜きにした貿易が活発化しています。特に海外展開を活発化させている日本企業は、量産拠点のメインが海外になっていますので、その生産に使う部材などのやり取りもすべて日本から輸出するのではなく、価格の安い国から送ったり、関税について有利な協定を結んでいる国から送るといったこともなされるようになりつつあります。



EPA(経済連携協定)におけるHSコードはどこで決められるのか

経済連携協定やFTAを用いる場合、物品のHSコードの特定が非常に重要な要素となります。HSコードによって関税率が決まり、何らかの貿易協定で関税の減免が可能かどうかもHSコードによってルールや減免率が変わるからです。

FTAやEPAが適用可能かどうかは、まず輸出する物品のHSコードが何番になるのか、輸入側に確認をすることからはじまります。

通常は通関業者、輸送業者(フォーワーダー)を通じて、現地のHSコードを調べてもらいます。国によっては事前教示制度といって、その国の税関が前もって何番のHSコードになるのか教えてくれる制度もありますので、公式にはこれを使うことが推奨されています。

ただし、実務上は先進国に対しての輸出でHSコードが変わる事で関税額が大きく変わってしまうような場合はこうした制度が活用されますが、開発途上国や事前教示制度がなかったり、あったとしてもその内容が輸入申告時に尊重されないような場合は、事前教示制度ではなく、現地の通関事情に精通した輸送業者を通じて現地HSコードを確認することになります。

こうして現地での輸入申告時に用いるHSコードがわかれば、そのHSコードのEPA税率と原産地規則が確定しますので、適用可能かどうかの判断を行っていくことになります。

なお、このように事前に下調べしても実際に現地で輸入申告する際には別のHSコードを割り当てられ、協定による関税減免を受けられないこともあります。こうした場合は、あとでそのHSコードに対応する特定原産地証明書を持参して手続きすることで、関税還付が可能な国もありますが、ほとんどの国では関税還付手続きが困難であったり、煩雑である等の理由で一度支払った関税をあとから返してもらうことが難しくなっています。

こうしたHSコードの差異を指摘され、EPA税率が適用されなくなった場合、納期が許すのであれば、輸入申告を保留して税関に留置き、急いで別のHSコードにて判定申請を行った特定原産地証明書を送りなおす、という方法もできますが、日本以外の国同士の自由貿易協定のなかには同じ物品に対して複数のHSコードでの申請が不可能な協定も存在しますので、HSコードの確認と確定には細心の注意を払う必要があります。



WTOとTPP

WTOは世界貿易機関の略称で、貿易が円滑に進むようにルールを決めたり、各国が過度の保護政策によって貿易の妨げとなるようなことをしていないか監視したり、国家間の貿易や通商をめぐる紛争の解決を行ったりする国際機関です。貿易の自由化を進めている組織でもありますので、各国が課している関税を低減する取り組みも行っています。

WTOの加盟国は2013年12月にイエメンが加わったことで160カ国になりました。

TPPの方は、経済連携協定の一種であり、この協定を結んだ国同士のみで、関税を安くしたり、なくしたり、その他投資や人の移動、金融サービス、電子商取引、電気通信サービス、貿易の技術的な障害の撤廃などについて検討を行っています。

したがって、両者は同じレベルのものではないのですが、TPPのような経済連携協定(EPA)が活発化している背景には、WTOの役割の変化も関係しています。

もともと、貿易の自由化についてはWTOの前進であるGATTの頃から取り組まれてきており、世界貿易の中で一定の成果を挙げてきましたが、参加国の数が増え、農業を守りたい国と工業を振興したい国などその利害が一致しないようになり、一つのラウンド(交渉)で全参加国が納得できるような結論が出せなくなってきました。

特に品目ごとに関税率をどうするのかというのは、その国の産業に大きく影響する為、産業構造が異なる多数の国が同じルールとペースで貿易自由化を進めていくことが一層難しくなってきています。

こうして関税を減免するという側面における貿易自由化においては、WTOというほぼ全世界が関わる場ではなく、二国間や多国間の決められた利害関係者の間のみで、行われるようになり、FTAやEPAといった自由貿易協定や経済連携協定、また特恵貿易協定といった協定が過去にないほどに増加しています。



経済連携協定や自由貿易協定に違反した場合の罰則

経済連携協定や自由貿易協定において、この中のルールを破った場合の罰則に関する規程が協定本文に盛り込まれることは稀で、いずれも協定を結んでいるそれぞれの国内法にて対処されているのが実情です。日本であれば、「経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律」「関税法」「関税定率法」「関税暫定措置法」とそれぞれの施行規則や政令、省令、通達などがその国内法となります。

また、貿易協定をルールを破って用いたような場合には、輸出する側、輸入する側の双方に何らかの罰則が課せられることが一般的です。例えば、原産地証明書そのものを偽造発行したような場合や、日本とタイの経済連携協定を用いて、日本からタイへ物品を輸出する際、中国製の物品を日本製と偽って特定原産地証明書を発行させたような場合等が考えられます。

日本の場合は、関税法による罰則のほかに、「経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律」によって、証明書を発行する輸出側にも罰則が課せられます。30万円もしくは50万円の罰金が課せられますが、あまり悪質なケースであれば、その企業の経済連携協定利用停止措置というものも考えられます。

もっとも、この協定の本来の趣旨が協定を結んだ国同士の間で「貿易を活発化させること」にあるため、日本側での罰則は緩くなっていますが、輸入側でも以下のような過少申告や無申告に該当しますので、輸出金額によっては莫大な罰金となる可能性もあります。日本と違い、タイのように課税価格の倍がけで反則金を徴収するような国の場合、設備機械を1億円分送ったり、数年間にわたって量産に使う材料を数億円日本から支給していて罰則となった場合、減免効果をはるかに上回る罰金となります。

各国における関税法違反の罰則
国名 罰則の概要
タイ 関税法に基づき、物品価格の4倍の罰金及び税金もしくは10年以下の懲役、あるいはその両方。通報者に報奨金を出す仕組みあり。過少申告、無申告で罰則が異なる。過少申告の場合は、加算税として関税差額の2倍の支払と、延滞税として関税差額の1%/月。またVATも未払いとなっていることから、こちらも追徴。無申告扱いとなった場合、物品の売買価格(取引価格)に輸入関税とVATを加算した金額の2倍から4倍が罰金となる。
インドネシア 課税評価額を偽って関税額を過少申告していたと税関当局に判断された場合、最高1000%までの罰金。関税優遇の誤使用や違反に対しては、最高500%の罰金。税関担当者によって対応が異なること、透明性や公平性の面で問題視されている。
ベトナム 罰金の最高額は7,000万ドンである。過去への遡及は5年間までとされている。税関総局によると、「故意でない書類上のミスも、検査後であれば罰則の対象になる。ただし、書類上の簡単なミスは修正可能。
日本 過少申告加算税、無申告加算税のいずれかと延滞税。最高税率となるのは、無申告の上、仮装や隠蔽があったと認定された場合に課せられる重加算税で、不足税額の40%が加算。また、延滞税と消費税が課せられる。


現金に関税はかかるか

ほとんどの国で、一定金額以上の現金を持ち出したり、持ち込んだりする場合には空港内の税関にて申告が必要となります。各国で申告しなくともよい金額を超えているような場合で、無申告で出ようとすると現金そのものを没収されることもあります。

出国(持ち出し)、入国(持ち込み)の双方でそれぞれの国における現金で申告が必要となる額を事前に調べておく必要があります。

なお、金額によっては事前許可等がさらに必要なケースもありますが、現金そのものには関税はかかりません(※現金は物品ではない為)。

税関にて申告が必要な金額の例

現金の持ち込みや持ち出しで申告や許可が必要となる額
国名 申告や許可が必要な金額
米国 1万米ドル以上
EU 1万ユーロ以上
日本 100万円相当額(現金のほか、外貨、トラベラーズチェック、有価証券含む)
中国 2万元以上、外貨5000米ドル相当
インドネシア 現金1億ルピア以上を持ち込む場合は事前に税関による偽札鑑別必要、持ち出しの場合は事前に中央銀行の許可が必要。


タリフピーク

タリフピークとは高関税率を維持されている物品そのものや、高関税率であることを意味します。WTO加盟国のなかでも特に先進国は、MFN税率(WTO協定税率)の低減に率先して取り組んでおり、全タリフラインに占める関税率はかなり低い水準にまで落ちています。

これはWTOの前進であるGATTのウルグアイ・ラウンドにて、関税率の上限を交渉国相互で引き下げる取り決めを行い、随時実施してきた結果です。

ただし、こうした状況でも農産物を代表とする一部国内産業保護が必要な品目については、関税率低減を行わずに高い水準に保っています。関税の持つ役割のひとつが国内産業の保護にあるため、多くの国でこうした関税率を下げたくない品目は存在し、自由貿易協定を結ぶ際にもセンシティブ品目エクスクルーシブ品目(除外品目)として、関税低減については慎重な姿勢がとられています。

ただ、関税の低減を進められるだけ進めてしまっている部分もあるため、貿易の自由化における交渉ではどの国も交渉カードが残されておらず、こうした聖域ともされてきた関税を下げたくない部分にまで踏み込まざるを得なくなっているという事情もあります。

一度MFN税率を下げてしまうと、容易にあげることができなくなり、WTO加盟国すべてに対して同様の待遇をせねばなりません(FTA協定やEPA協定、関税同盟などは例外。ただしこれらはいずれもMFN税率よりもさらに関税率を下げたり、関税をなくしたりするための協定です。)



貿易用語でのRTAとは

RTAはRegional Trade Agreementの略称で、地域間貿易協定、もしくは地域貿易協定とも呼ばれます。WTO(世界貿易機関)が用いている用語で、国家間、地域間で結ばれる貿易に関するすべての協定を含む考え方で、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)、特恵貿易協定(PTA)、関税同盟(CU)などをはじめとする協定・条約を総称すると、RTAとなります。

現在のところ、交渉中のものを含め583以上の貿易協定が存在し、WTOが把握している発効済みの貿易協定は377になります。

従来、関税の低減など貿易の自由化を進める交渉やGATTやWTOといった加盟国全体を巻き込む形で行われていましたが、参加国の利害対立が鮮明となり、具体的な品目ごとの関税率低減について、すべての参加国で合意を得ることが難しくなりました。

こうしてWTOというような大きな場ではなく、利害の一致を試みようとする二国間や多国間で貿易協定が活発に締結されるようになったという背景があります。



輸入割当とは

輸入割当は自国へ入ってくる物品を政府が直接コントロールする数量制限の一種で、国際市況価格や物価、為替などに関係なく、ある物品について自国に輸入できる数量を決めてしまい、それをオーバーするものは輸入自体をできなくする制度です。

これを行うことで、指定された物品の国内価格は高止まり(あるいは上昇)することになり、輸入量も限られることから、市場に出回る数自体が限られてきます。高関税を課す場合と似た効果ではありますが、両者の決定的な違いとしては、輸入割当においてはそもそも輸入割当枠を得られなかった場合には輸入自体がまったくできないという点です。また決められた枠内を超える数量も輸入できません。また、高関税であれば、関税収入は政府に入ることになりますが、輸入割当の場合、枠を得たもの(ライセンスを取得できたもの)の利益に資することになります。

WTO(世界貿易機関)では、貿易における世界の共通ルールを定めていますが、その中でこうした「数量制限」は「原則」としては禁止されています。これは数量制限をかける対象や相手国を恣意的に選定することができることになるため、公平性や透明性に欠くとの理由です。ただ実際には自国で保護が必要な品目について、輸入割当を課す国もあります。



関税同盟

関税同盟は、同盟を結んだ国の間では原則的に関税をかけずに貿易による物品のやり取りを行うことができ、同盟を結んでいない国に対しては、関税同盟の参加国すべてが同じ関税率をかけることになります。

また、関税だけでなく貿易政策や通関行政を参加国で共通化することも可能であり、貿易の自由化という側面ではブロック経済化を招くとの批判もあります。

関税同盟のメリットのひとつには、同盟を結んだ国同士では関税をかけずに(例外品目を設けるケースもありますが)自由に物品の貿易を行うことが可能になるため、自由貿易協定の側面を持ちます。

ただし一方では、関税同盟の外に国に対して、同盟国のどこの国も同じ関税率を設定することになるため、同盟国の域外から特定の製品が入ってこないように調整することができます。こうなると、関税同盟を結んでいるエリアに輸出することができない品目が出てくることになり、関税同盟を結んでいる国のなかだけで貿易を活発化させることもできてしまいます。

これが関税同盟のもつデメリットであり、意図的に「ブロック」によって世界経済を分断させる側面ともなり得る要素です。現在はこうした過度のブロック経済化を招くような政策をとらないようWTOが監視していますが、貿易の自由化を部分的には進める役割も持つため、その線引きは難しく、ある産業にとっては保護主義と映っても、別の産業にとっては歓迎すべき協定と映ることもあります。

関税同盟の機能を持つ代表的なものとしては、EU(加盟国28ヵ国)、MERCOSUR(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ【停止中】、ウルグアイ、ベネズエラ)、GCC(アラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビア)、SACU(南部アフリカ関税同盟:ボツワナ、レソト、ナミビア、南アフリカ、スワジランド)などがあります。

なおASEANは自由貿易協定の締結主体ともなっていますが、関税同盟ではありません。