EUのFTAとEPA

EU加盟国は2014年現在、次の28カ国となります(ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、デンマーク、アイルランド、イギリス、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、オーストリア、フィンランド、スウェーデン、キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア)。

原則として、協定発効には、欧州議会の同意が必要となるため、協定実現には全加盟国(28カ国)が賛成する必要があります。

EUはFTA・EPAをはじめとする通商協定の締結主体として、複数の国・地域との間で協定を結んでいます。EUが締結もしくは交渉中の通商協定には、以下のようなタイプがあります。

EUの締結する通商協定、FTA、EPA、貿易協定の種類
協定の種類 協定概要
安定化・連合協定(SAA)
Stabilisation and Association Agreement
EU加盟を希望する国との間で締結され、EU加盟の公式の候補国での経済、政治、人権、貿易などの改革をはかるもので、部分的・全面的な関税減免措置も含まれる。
連合協定(AA)
Association Agreement
EUと非EU諸国との間で結ばれるもので、政治、貿易、社会、文化、安全保障上の結びつきを強める為のもの。
自由貿易協定(FTA)
Free Trade Agreement
原則、協定国間で関税の撤廃・減免を目的とした貿易協定。
包括的自由貿易協定(DCFTA) 連合協定の一環として締結されることもある自由貿易協定。物品に関する関税の減免だけでなく、政治・経済・安全保障上の結びつきを強化する意図がある。ただ、FTAと呼ぶには協定内容が若干広い範囲に及ぶ場合や他国ではEPAに相当する協定にもDCFTA(Deep and Comprehensive Free Trade Agreemen)の名称を使う場合がある。
経済連携協定(EPA)
Economic Partnership
FTAでの関税減免に加えて、投資規制をはじめとする非関税障壁の撤廃、人的交流の拡大、各分野の協力、知的財産制度や競争政策の調和なども含んだ包括的な連携協定。
暫定経済連携協定(暫定EPA)
Interim Economic Partnership Agreement
合意できる事項についてのみ先行して締結し、両国間での物品の貿易取引の障害にならないようすぐに運用を開始することに主眼を置いたEPA。EUの場合、ACP諸国との間でこのタイプのEPAを先行して締結している。
関税同盟(CU)
Customs Union
同盟国間では、関税を減免する貿易圏を構築し、域外に対しては共通の関税を設定するもの。

安定化・連合協定は、EU加盟を希望する国との間で締結されるもので、その国における経済、政治、人権、貿易などの改革をはかるためのものとされます。このため、締結国とEUとの間では部分的もしくは全面的な関税撤廃が適用されることがあります。また、連合協定についても同様で、FTAの恩恵を得る代わりに、当該国での上記改革を行うことが条件となっている場合があります。

これらは元来、強い政治的な意味があり、ENP(欧州近隣政策)と呼ばれる政策に基づいて行われている協定で、端的に言えば、欧州連合の拡大による利益を近隣諸国と共有することを主目的としています。EU勢力圏の拡大、と言い換えてもよいかもしれません。一旦、連合協定を結ぶと、EU側から相手国に対して政治・経済・通商・人権などの政策転換を要求する代わりに、関税の減免などによりEU市場へのアクセスの便宜をはかるという内容になっています。

EUは3つの関税同盟を締結していますが、これはFTAのように同盟間での関税削減に加えて、域外に対する関税についてもグループ内で税率の足並みを揃える枠組みです。EUそのものもこの関税同盟としての性質を持ち合わせています。

また、北アフリカに位置するマグレブ諸国や中東(シリア、リビアを除く)とも個別に協定を締結していますが、これら諸国とは物品の貿易に限定された協定を結んでいます。

EUの協定数が多いのは、各々が長い歴史を持つ27カ国もの集まりであるということに加え、関税や非関税障壁の撤廃に関わる協定が単に貿易上の協定や経済連携の話だけではなく、政治的な内容を大きく絡めてくることも、協定数が多いことと無関係ではありません。実際のところ、全体的に見ると、モノの輸出入による関税を撤廃して双方の利益になるように、という目的だけで締結されている協定は少なく、其の先を想定して、関税や貿易自由化も、というのがEUのFTAのスタイルともいえます。

2006年、EU欧州委員会が新しい通商戦略である「グローバル・ヨーロッパ」を発表し、これまでFTAには消極的だった方針を大きく変え、アジア圏(韓国、東南アジア諸国、インド等)とのFTA交渉が活発化しています。ASEANに関しては、加盟国と個別に交渉する方向へ方針転換し、シンガポール、マレーシア、タイ等と締結・交渉・準備を行っています。

また、2013年に入ると、EU-米国との経済連携協定の交渉開始に合意。実現すれば世界最大の自由貿易圏となります。ここ数年でFTA、EPA協定の締結交渉が特に盛んになっている地域です。

EUが締結、交渉している主なFTAの一覧
協定対象国・協定名 締結年、発効年 協定内容
欧州経済領域(EEA) 1994年発効 EFTA加盟国がEUに加盟しなくともEUの単一市場に参加できるようにした枠組み。EFTA、EU間の協定。(具体的にはEU諸国と、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーとの協定)
フェロー諸島(デンマーク自治) 1997年1月発効
スイス 1973年発効
ノルウェー 1973年発効
アイスランド 1973年発効
マケドニア 2004年発効 安定化・連合協定
クロアチア 2005年発効 安定化・連合協定
アルバニア 2009年発効 安定化・連合協定
モンテネグロ 2010年発効 安定化・連合協定
ボスニア・ヘルツェゴビナ 2008年7月発効 暫定通商協定
セルビア 2010年2月発効 暫定通商協定
アルジェリア 2005年9月発効 連合協定
エジプト 2004年6月発効 連合協定
イスラエル 2000年6月発効 連合協定。他にACAA(Conformity Assessment and Acceptance of Industrial Products)と呼ばれる協定を医薬分野での協定も締結。
ヨルダン 2002年5月発効 連合協定
レバノン 2003年3月発効 暫定協定
モロッコ 2000年3月発効 連合協定
パレスチナ 1997年7月発効 連合協定
シリア 交渉は2004年に妥結したが、政治的な理由で署名に至っていない。1977年の連携協定も一次停止。EU側は事実上の経済制裁を行っている。 連携協定
チュニジア 1998年3月発効 連合協定。包括的FTAについては現在も進行中。
リビア 2008年から交渉。EU側は2011年に交渉停止を決断。 FTA
GCC 中断。次回交渉は未定。非公式のやり取りを継続中。
チリ 2005年3月発効 連合協定
メキシコ 2000年7月発効 経済パートナーシップ協定
南アフリカ 2000年1月発効 貿易・開発協定
CARIFORUM(カリブ諸国15カ国) 暫定適用 暫定EPA適用
コートジボワール 2008年締結、未発効 暫定EPA
カメルーン 2009年署名・未発効 暫定EPA
東南アフリカ(モーリシャス、セーシェル、ジンバブエ、マダガスカル) 2009年に暫定EPAに署名。2012年より暫定適用。
韓国 2010年10月調印、2011年7月から暫定適用 FTA、EPA
中央アメリカ 2011年3月仮調印、2012年調印、発効待ち 連合協定
ペルー、コロンビア 2011年3月仮調印 FTA
アンドラ 1991年7月 関税同盟
トルコ 1995年12月 関税同盟
サンマリノ 1992年12月 関税同盟
アルメニア(AA、DCFTA) 2012年、連合協定の一部として、包括的FTAの実施をEUが承認。交渉開始。 包括的FTA
モルドバ 2012年交渉開始。交渉終盤。
アゼルバイジャン(AA) 2010年、EU側にて交渉することが可決。 連合協定、PCA(パートナーシップ協力協定)。FTAについての交渉はなし。
インド 2007年に交渉開始し、妥結に向けて継続中。当初は2012年締結の話もあったが、予定にはあわず。 FTA(EPA)
シンガポール 2012年12月合意。2014年発効目指す。関税撤廃に止まらない内容の包括的FTAで、両国でサービス市場への相互参入の拡大でも合意。環境サービス、専門職・ビジネスサービス、金融サービス、海上輸送など。 FTA、包括的FTA
マレーシア 2010年交渉開始。継続中。 FTA
カナダ 2009年交渉開始。交渉継続中。交渉は最終段階に入っており、締結間近。 CETA(包括的経済貿易協定):Comprehensive Economic and Trade Agreement
メルコスール、南米共同市場(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ)※パラグアイは現在メルコスールへの参加権が停止(2012年) 交渉難航中。 連合協定
サウジアラビア(FTA) 交渉中 自由貿易協定
シリア(AA) 交渉中 連合協定
ウクライナ(AA、DCFTA) EU-ウクライナ間の連合協定の一部として、包括的FTAについて交渉。2011に妥結。2012年仮調印。 連合協定、包括的FTA
グルジア共和国 5回目の交渉が完了。次回は2013年3月に実施予定。 包括的FTA
ベラルーシ 二国間協定が2009年に切れる。ロシア、カザフスタン、ベラルーシとの間で関税同盟を結んでおり、延長の予定なし。 繊維製品に関する協定
中国 2011年以降交渉なし。貿易、投資分野含めた両国の連携を目指した協定。EU側では2005年に交渉開始が承認された。 Partnership and Cooperation Agreement(PCA)
イラン 2002年から交渉。政治的な理由により中断。2005年までは交渉があった。経済制裁。 貿易に関する協力協定
イラク 2006年から交渉。 貿易と協力のための協定。Partnership and Cooperation Agreement(PCA)
カザフスタン 鉄鋼製品につき、EC-カザフスタンの協定を更新することをEU側が求める。2012年には3回目の交渉。 FTA交渉ではなく、強化されたPCAにつき話し合い。
ロシア 現行のEU-ロシア間のPCAを更新・拡大するために交渉。貿易と投資分野を含め、現行のPCA置き換えのための交渉を行うが、FTA交渉は進まず。 Partnership and Cooperation Agreement(PCA)
ASEAN-EU 交渉中断。EU側はASEANに加盟する国と二国間交渉へ方針転換。 自由貿易
日本-EU 欧州議会は2012年10月25日交渉開始を決める決議。交渉開始に向けて調整中。2013年春に交渉開始予定。なお、EUが日本とEPA交渉を開始するには、加盟27カ国すべての承認が必要。 EU側の提示条件:
・自動車分野を含めた日本側の非関税障壁の撤廃と並行してEU側の関税引き下げを実施するため、日本側が具体的な成果を出すまでEU側は関税を引き下げない。
・交渉開始から1年後に日本と合意しているロードマップで示された非関税障壁の撤廃や鉄道・都市内交通の公共調達で進展が不十分な場合は、交渉を中止する。
EU-米国 2013年2月、交渉開始に合意。2013年半ばに交渉開始予定。 環大西洋自由貿易協定も視野に。これは米国-EUだけでなく、NAFTA、EFTAも巻き込んだ巨大貿易圏の構想。
ベトナム 2012年交渉開始。交渉継続中。 EPA、FTA(DCFTA:包括的自由貿易協定)
アンデス共同体(ボリビア,コロンビア,エクアドル,ペルー) 2009年発効 現時点で、GSP対象国でもある。ボリビア以外は経済連携協定(EPA)を締結。なお、ペルー、コロンビアとのFTAは仮調印済。
中央アメリカ 2010年交渉が完了し、2012年に締結。 コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、パナマとの間で連合協定が成立。2012年12月に欧州議会で批准。2013年半ばには暫定適用の可能性。
メルコスール 2010年に再交渉開始。交渉は8回まで実施されている。工業分野での貿易だけでなく、政府調達、知的財産権、技術上の障壁の撤廃を目指す。2013年第四半期には双方で市場アクセスへの案を提示予定。 包括的FTA

EUに輸入する際、関税以外にかかる諸税について

輸入時に関税のほかにかかる税金については各国の税制による。

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